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2012.10.26
[インタビュー]
公式インタビュー アジアの風 インドネシア・エクスプレス 『空を飛びたい盲目のブタ』『動物園からのポストカード』

エドウィン監督 (『空を飛びたい盲目のブタ』、『動物園からのポストカード』)
エドウィン

©2012 TIFF

 
インタビュー中、エドウィン監督が私の手帳を指差して「リサとガスパール?」と言ったのには驚かされた。監督は「可愛いよね」と言って照れたように笑った。そうか、動物とファンタジー…と観たばかりの『動物園からのポストカード』との共通点が頭に浮かんだ。作風からは「とんがった映画を作る異才」というイメージが強かったのだが、本人はいたって優しそうな好青年で、インタビューは始終和やかに進んだ。
 
――処女長編『空を飛びたい盲目のブタ』以来、3年ぶりにあなたの新作を拝見することができて、嬉しい限りです。前作では明確な主人公はいませんでしたが、新作『動物園からのポストカード』には主人公がいます。前作で爆竹少女を演じたラディア・シェリルが演じる女性です。前作から発展するような形で作られたものでしょうか。それとも別物としてですか?
 
エドウィン監督:自分の中では『空を飛びたい盲目のブタ』の時代は終わり、その後1年経ってから書き始めたので、まったく別物と言っていいと思います。私は動物園がとても好きで、ジャカルタの忙しい日々からの現実逃避としてよく行っていました。そうしているうちに、動物園に住んでいる人と友達になったのです。彼は飼育員ですが、もちろん夜もいる義務はありません。彼は25年ほどそのような生活を続け、動物園を出るのは年に2回くらいです。彼の目を通して物事を見るようになり、動物のことだけではなく、人間のことなども考えるようになったのがこの映画の発端になっています。
 
――映画に登場する動物園でしょうか。どこにある動物園ですか?
 
エドウィン監督: 70年代からスラバヤにあるインドネシア最大級の動物園です。サッカースタジアム10個分くらいの大きさを持ち、その半分以上は森になっています。80年代から90年代にかけて、動物園のなかに住み、湖もあるのでそこで魚も釣れれば養鶏までしてしまうということがありました。今はそこまでのことはありませんが、この映画のなかでテントが映るショットがあると思います。女性と幼い子供が今も住んでいるところを撮影したのです。
エドウィン

©2012 TIFF

 
――あなたの映画は誰の映画にも似ていません。今まで体験したことのないような映画体験ができるのがあなたの魅力だと思います。通常の作り方とは違う作り方をしているのではないかと想像しますが。
 
エドウィン監督:私はとても強いイメージから映画を作り始めるのが好きです。『空を飛びたい盲目のブタ』では爆竹サンドイッチを咥えた少女の映像がとても強くイメージされ、そこからスタートしました。『動物園からのポストカード』では象の乾いた肌に雨粒が落ちるという繰り返し現れたイメージから始まりました。次にキャラクター設定を考えます。そしてキャラクターごとのシーンが浮かびます。状況設定をして、その幾つかの断片を繋いでいきます。そういう作り方なので、私の映画はその断片が必ずしもストーリー的に繋がったものではないんですね。
 
――音楽の使い方もまたあなたの映画は特徴的です。『空を飛びたい盲目のブタ』ではスティービー・ワンダーの同じ曲が、違う局面で何度も使われ、その度に意味を変え、効果的でした。『動物園からのポストカード』でも、音楽があることによって、強いエモーションが立ち上がってくるような箇所が何か所かありました。
 
エドウィン監督:音楽に関しては、それによって何かを変えたり、強くするというよりは、あくまでキャラクターのような、構成員のひとつと捉えています。『空を飛びたい盲目のブタ』での音楽は、キャラクターのひとつだと思っています。『動物園からのポストカード』での音楽は、場所を現す象徴的な使い方をしています。というのは、スピーカーから流れていますよね。
 
――あなたはまた、短編の名手でもあります。私は『木の娘・カラ』という素晴らしい短編を忘れられません。短編はひとつの強烈なイメージで作り上げることができますが、長編はそのイメージを持続させ、変化させ、重ね合わせていくことが必要になると思いますが。
 
エドウィン監督:私にとっては短編も長編も尺が違うだけで、さほど違いはありません。あえて言えば、短編は「叫び」のようなもの、長編はもっと思索的なものになります。
 
――3年前来日されたプロデューサーのシディ・サレ氏にインドネシア国内での公開状況を聞いたところ、厳しいというようなことを仰っておられました。あなたの作品はもともと海外での評価が先に来たところがあると思いますが、その後のインドネシア国内での公開状況や評価は変わりましたか?
 
エドウィン監督:海外での評判が良かったからといって、国内での状況が変わるというものでもないんですが、状況は徐々に良くなっていると思っています。『動物園からのポストカード』はインドネシアの企業が資金提供してくれています。両作品とも検閲を通っていないので、正規上映はできないんですが、ジャカルタにあるアート系映画館で3週間上映し、連日7割方お客さんも入っていました。批評に関しては、中間がなく両極端な感じですが、特に若い世代が受け入れてくれるのを頼もしく思います。
 
エドウィン監督の作品に関しては、私自身、短編は非常に秀逸だが、長編は構成力に難ありと思っていた。しかし新作を観て、断片がストーリー的に明確な繫がりや整合性を持たないことを、かなり意識的にやっているのではないかと感じた。新作ではファンタジーやエロチシズムの要素が強まり、作品に明るさを添えている。『動物園からのポストカード』は触感的な映画でもあったが、今後は匂いを映画で表現してみたいとのこと。1978年生まれとまだ若い監督であるので、今後のチャレンジが楽しみである。
エドウィン

©2012 TIFF

 
聞き手:夏目深雪(批評家・編集者)

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