Home > ニュース > 10/25(木)日本橋で日本映画を観よう『エンディングノート』:シンポジウム
ニュース一覧へ 前のページへ戻る
2012.10.27
[イベントレポート]
10/25(木)日本橋で日本映画を観よう『エンディングノート』:シンポジウム

10/25(木)日本橋で日本映画を観よう『エンディングノート』の上映後、砂田麻美監督エリザ・フクサスさん(コンペティション『ニーナ』監督)が登壇、シンポジウムが行われました。
エンディングノート

©2012 TIFF

 
エリザ・フクサス監督(以下、フクサス監督):『エンディングノート』を観て、砂田監督の勇気に衝たれました。大事な人の死を撮るということは、考えただけでも凄い勇気が要ることです。
 
砂田麻美監督(以下、砂田監督):ありがとうございます。私は、『ニーナ』を観て、こんなに美しい素敵なものを最初の映画で自分のビジョン通りに作っていることに、凄く羨ましいと思いました。もしかしたら、カメラマンが素晴らしいと画が綺麗だと思っている人もいるかもしれませんが、実は監督が“私はこれを撮りたい”と思わないと表現できないものがたくさんありますから。ところで、『ニーナ』って25歳の女性の心の内を繊細に描いた映画で、物語にも強い起承転結がない。そのような作品を作るために、どうやってお金を出してくれた人に対してプレゼンテーションしたのかお聞きしたいです。
エンディングノート

©2012 TIFF

 
フクサス監督:どうやって資金集めをしたのかということは、親しい人たちからも聞かれましたね。実のところ、この映画に関しては、プロデューサーを説得する必要は全くなかったんです。というのは、彼らも私が何を撮りたかったのか最後まで判らずじまいだったからです。プロデューサーの名前はクレジットで何人か出てますけど、なぜ彼らがお金を出したかは、私にとっても謎のままですね(笑)。そんなわけで私は『ニーナ』を全く自由に撮ることができたのですが、やはり強いプロデューサーがいて、時々こうするべきじゃないとか言ってくれるほうがいいですね。それによって、もっと違う発想ができるかもしれませんから。
 
砂田監督:多分、フクサスさんのことをよくわかってらっしゃるプロデューサーだったのではないでしょうか?
 
フクサス監督:いえ、私のことなど全く知らない人ばかりでした(笑)。
エンディングノート

©2012 TIFF

 
砂田監督:それは是非、私にも紹介して欲しいですね(笑)。私の場合もスタートはかなり特殊で、小さいときからたくさんホームビデオとして撮ってたんです。で、父の病気がわかってからもう一度きちんと撮り始めたんですけど、亡くなった後に「編集してみたら?」という人は周りにひとりもいなかったし、ただただ自分のなかで今まで撮り溜めたものをひとつの形に編集したいという思いがあって、会社にお休みをもらって自宅でアップルのファイナルカットを使って編集して、もう9割方編集ができあがったものをプロデューサーの是枝裕和監督に見せたんです。そのときに是枝監督の「これは映画になるんじゃないかな」というひと言があって、すべてが始まりました。
 
フクサス監督:これからフィクションを撮るとすると、どの部分に一番不安を感じるでしょうか?
 
砂田監督:やっぱりスタッフの数ですね。もともとフィクションを志して脚本を書いたり色々な準備をしていて、同時にフィクションの現場で働いたりもしていたので未知の世界ではないのですけど、50人、100人っていう人たちを動かしていかないといけないと思うと…。もっとデーンと構えてられればいいんですけど、見ての通りあんまり説得力がないので(笑)。スティーブ・ジョブズの本を読んでみたりして、どうしたらプレゼンを上手にできるようになるかとかビジネスに通じることも勉強したりしています。
 
フクサス監督:自分の場合は、多くの人と係わったり、動かすのがとっても好きなんです。たくさんの人を魅惑して洗脳して(笑)。むしろ5人6人の少ないスタッフのなかで働いたら発狂してしまうのではないかと。もちろん魅惑や洗脳といっても、優しく親切な形です(笑)。スタッフを動かすときは、何より正確さを心がけていますね。
 
司会:元々おふたりは、小さい頃から映画の監督になりたいと思っていたのでしょうか?
 
砂田監督:映像の仕事をしたいと思ったのは小学生くらいですかね。本格的に絶対そういう仕事をするんだと決めたのは高校生のときで。でも映画監督になるのがもうちょっと遅ければ、辞めていたと思います。ずっと自分のものを作りたかったんですけど、撮影現場に入っていると余裕がないし、もちろん是枝監督のアシスタントは楽しかったんですけど、これ以上アシスタントを続けると、自分が作りたい欲求がなくなってしまう感じでいたので。
 
司会:フクサス監督は、大学では建築の勉強をなさっていたということですが。
 
フクサス監督:小さいときの夢は肉屋になることでした。オペラ歌手を目指したこともあります。でもそのうちに、自分にとって本当にやりたいことは、書くことだと思い始めたんです。書くことだけは、絶対必要だと。ただ言葉で書くだけでは駄目で、ある種独裁的な立場が必要だとも感じていて、そうすると言葉というのは、読む人によって自由に解釈することができるので思い描いた画を正確に見せることはできない。ところが映画は、それができるのです。
 
司会:「女性監督」として、現場で女性であるがゆえに大変だったエピソードはありますか?
 
砂田監督:映画業界では、映画のプロジェクトを進めるかどうかをジャッジする人たちというのはほぼ100%男性なんですね。ですから、どれだけ論理的に自分が今やりたいと思っていることを言葉で説得できるかが重要なんです。「こんな雰囲気のこんな感じがいいと思うの」というような言葉で言っても、一切通じない。私は話すよりも文章にしたほうが伝えやすいというのがあって、なるべく長くても文章にするように心懸けています。
 
司会:イタリアでは女性監督は、仕事しやすい環境にあるのでしょうか?
 
フクサス監督:私自身の見方を示せば、映画作りというのは男女問わず難しいのではないでしょうか。映画はイタリアでも男性の世界ですけど、イメージを伝えるということについていえば、私は男も女も関係ないのではないかと思っています。映画監督というのは、ニュートラルな存在でなければならないし、性を意識しない存在でなければならないと思います。
 
司会:最後に、次回作のことを聞かせてください。
 
フクサス監督:幸運にも、私に対して叱咤激励してくれる本物のプロデューサーとの出会いがあり、今脚本を書いています。それは、『ニーナ』とは全く違ってはっきりした物語があるコメディです。
 
砂田監督:ずっと、次はフィクションを撮りますと言い続けてきたんですけど、どうも次はまたドキュメンタリーになりそうな気配で(笑)。今度の被写体は『エンディングノート』の時とは全然違う世界になると思います。あの映画では、父が撮られたくないときや自分が撮る気にならないときは撮らないと決めていましたが、それでも撮らないということが難しかった。でも、これからは被写体が他人になっていくので、どうやって撮れるかというのが自分の挑戦になっていくと思います。
エンディングノート

©2012 TIFF

 
日本橋取材:やまだ おうむ
 
エンディングノート
 
ニーナ

KEIRIN.JP本映画祭は、競輪の補助を受けて開催します。TIFF History
第24回 東京国際映画祭(2011年度)