2012年、第25回という記念の回を迎える東京国際映画祭。
その開催に向け、東京国際映画祭 依田 巽 チェアマンから、これまで、そしてこれからのTIFFについて、話しを聞きました。
依田巽チェアマンインタビュー
第25回開催に寄せて
――東京国際映画祭が今年25回を迎えたことに対しての感想をお聞かせください。
「東京国際映画祭のチェアマンを第21回から始めて、今年、5年目が第25回という数字の一致も感無量ではありますが、自分が想定した映画祭に本当になったのだろうかと考えることはあります。しかしコンペティション参加作品の応募数やそのクオリティも確実に上がっているので、結果が出てきていると感じています。
TIFFでグランプリを獲得した監督が、世界でいい結果を出すような動きもあり、24回の場合は『最強のふたり』が本国フランスを始め、ヨーロッパや韓国でも大ヒットしました。それは審査委員の選択眼の正しさが証明されたのですが、世界的にもTIFFが評価されることになったと思っています」
――世界的にも評価の高いグリーンカーペットなど、発想や思いはどういうときに湧き出してくるのでしょうか。
「“ピンチがチャンス”だと日頃から思っているのですが、私がチェアマンをお引き受けした時にTIFFが直面していた問題は、国際性の有り様でした。裏を返せば、内外の映画業界の東京国際映画祭に対する見方がこちらの考え通りにはなっていない。
それはピンチなのですが、一年の最後発のメジャーな映画祭としてのハンディキャップをどう克服するかというとき、それならば何か話題性を高めたらいいのではないかと考えました。しかし、話題性とは何か、それは映画祭が発信する情報が世界的に広がっていくことではないかと思ったのです。
“地球は人間をつくった、人間は映画をつくった”――第21回のスローガンですが、持続的な地球の環境の維持を考えたちょうどそのときに、グリーン、ハイブリット、それからグローバルという言葉が頭に浮かび、それがグリーンカーペットに繋がりました。
当時、環境にフレンドリーな方針を持つ企業も増えてきました。それがトヨタであり、コカコーラ、木下工務店、キヤノンをはじめとして、多くの企業がそうだったわけです。そこで“TIFFのカーペットはグリーンです”と、特異性をきちんと情報発信してまずこちらを向いてもらい、そこから高品質なパワーのある映画を集めて、世界のメジャーな映画祭を目指そうと宣言したのが一連の流れです」
――まずはこちら向いてもらって、今度は高品質の作品を集める……。
「そのためにはメジャーな映画祭に自分で足を運んで、自分の言葉で喋って、そして東京国際映画祭に協力して下さいとお願いする。まあ、ヒューマンネットワークをどう作るかということですね。つまり、話題性とヒューマンネットワークが大事なのです。そしてその結果として、力強い作品、特異性のある東京らしい映画が集まること、そして審査委員に期待されることが目標だと思い、それに向かって24回まで動いてきたと思っています」
――今回の冊子に釜山映画祭をやってこられたキム・ドンホさんから“TIFFはアジアの映画発展を牽引してきた”とコメントを頂いています。そこでチェアマンにお伺いしたいと思ったのは、やはりアジアでのTIFFの基盤を確固とした方がいいと考えておられるのか、それとも早期のうちに4大映画祭として発展していった方がいいと考えておられるのか。もしかしたら同時というか両方かもしれませんが。
「日本はアジアの一員ですから、映画祭としても、またビジネスとしてもアジアとの交流はすごく大切です。それによってアジア各国のコンテンツ、フィルムカルチャーのレベルをどんどん上げていき、私たちも質の高い映画を海外に売り、また、アジアのいい映画を日本で上映できる。日本において欧米のカルチャーは受けがいいけれど、例えば東南アジアをどうするかは考えなくてはいけない。少なくとも釜山、香港、上海などの映画祭は頑張っているし、そういう意味でこの5年間ずっと、釜山も上海も香港も毎年行っています。北京(映画祭)も昨年から行っていますしね。
欧米の皆さんも、アジアでは東京国際映画祭はリーダーだというふうに言ってくれている。それは嬉しいことだし、私はすごく有り難いことだと思っています。しかし、何を持っていちばんいいというのかはわかりませんよね。映画祭の来場者数だけでは決まらないし、フィルムの数だけでも決まらない」
――4大映画祭へというのは、まだステップが必要でしょうか?
「まだまだでしょうね。トロント映画祭が北米最大の映画祭だという位置付けからいけば、TIFFがトロントを飛び越して4大映画祭と果たしていえるかどうか。私としては、5大映画祭になるという目標は掲げなければいけないとは思います。トロントの場合はよりコマーシャルベースですよね。北米市場の秋の映画祭ですから、来年のオスカー、アカデミー賞を考えながら行く人が増えています。そういう意味では映画祭のなかでもカンヌ、ベネチア、ベルリンとは少し違うかもしれないですね。TIFFとしては、やはりこちらの映画祭を目指して、国際映画祭としてのクオリティを上げていく必要があると思います」
――TIFFは第25回を迎え、これからも続いていくと思うのですが、またこれは映画祭に限らないかもしれませんが、継続していくには何がいちばん必要だと思われますか。
「それは哲学というか、映画祭としての理念が大事だと思います。これは企業でも何でもそうでしょう。映画祭でいうと、その理念を達成するための仕掛けとして、例えばグリーンカーペットがあった。そして、理念をベースに環境に対応できる映画祭であるべきだと思っているので、グリーンカーペットが未来永劫に続くかどうかは私が言うことではないけれど、ひとつの象徴になってくるとは思います。
その背景にある理念とは、クオリティつまり高品質な映画です。そういう映画が多くの人、多くの産業を繋いでいく。そしてそれによって機会が生まれ、新しいビジネスが誕生していく。さらに、イノベーティブに、新しい何かを求めて掲げてきたのがTIFFのホスピタリティです。多くの人に楽しんでもらえる、日本の良さをわかってもらえる、それが日本を売り込む最も大事なポイントだと私は思っていますから。旗を振って走る人がチェアマンだとすれば、その辺りがしっかりしていれば、継続は大丈夫だと思います」
――いろいろな映画祭にいかれてTIFFと比較されることはありますか?
「TIFFを著名な国際映画祭にするためのインフラの整備が圧倒的に不足していますね。韓国、香港、上海、北京を見ても東京がいちばん質素かもしれない。そういう意味では東京がいちばん厳しい。やはりバランスが一番取れているのはカンヌなのでしょうね。国を挙げて、市を挙げてフェスティヴァル会場を提供し、そして海岸沿いに多くのホテル、民間のマンションがその期間は全部貸し出され、そこを人が行き交い、映画館もそれほど不便ではないところにきちんとある。カンヌだっていろいろ不便なことはあると思います。でもバランスが取れています。
それから、TIFFと私たちの映画界を考えたとき、まず、日本の映画人口をどう増やすかというのは映画業界にとって大きな宿題で、それはもう真剣に考えなくてはいけないことです。映画祭としてはコマーシャルな映画だけに偏らず、独自性のある作品を集めるべきでしょう。その映画力が日本の映画産業、文化産業を向上させる。それがTIFFの理想でしょう」
インタビュー:2012年7月11日
インタビュー・構成:「25th TIFF HISTORY BOOK」編集部