10/21(日)日本映画・ある視点部門『はなればなれに』のQ&Aが行われました。
登壇ゲスト:下手大輔(監督/脚本)、城戸愛莉(女優)、斉藤 悠(俳優)、中泉英雄(俳優)
-初めてお客さんと一緒にご覧になっていかがでしたか?
下手大輔監督(以下、下手):やはり緊張しました。上映場所が違うと音の感じが変わるんですが、この劇場だと、静かなこの映画がより静かに見えました。
城戸愛莉(以下、城戸):私もすごく緊張して皆さんの反応とかが気になっていました。今はほっとしています。
斉藤悠(以下、斉藤):僕もものすごく緊張しまして、とりあえず終わってほっとしました。
中泉英雄(以下、中泉):やめてもらいたいですねえ、お客さんと観るのは(笑)。ほんとに(笑)。 第19回のTIFFにも来たんですが、こんなことはなかったんです。お客さんと一緒に観るって、すごいですよねえ!
―Q&Aを始める前に、2、3お伺いします。
この映画は「俳優」の映画だと思いました。ちょっと不思議な世界の中で、俳優さんたちの魅力が光っています。こちらのお三方だけでなく、諏訪太郎さん、松本若菜さん、脇にいたるまで個性的な俳優さんばかりでした。キャスティングはどうやって?
下手:すべて、オーディションで選ばせて頂きました。まず、各事務所に応募をかけたところ1,000通以上の応募がきたんです。キャスティングディレクターの方が段ボールに入った書類をテーブルに、バーンとぶちまけて、テーブルから落ちた書類は運がなかったと思ってください、と(会場笑)。いやいや、それも見ましょうと言って、5人で仕分けして書類選考をして、50人の方にオーディションに来ていただきました。
―台本を書くのに2年かけたと伺いましたが。
下手:一つはすべてのシーンに今までの映画のオマージュが入っていていることがあります。名作の表現をもう一歩アップデートして、深く違う形で表現したい思いからです。もう一つは、『シナリオ構造論』という野田高梧さんの本がありまして、その本を理解し表現したいと思っていました。
―野田高梧の『シナリオ構造論』というのは、シナリオを書く上でとても重要で非常にクラシックな参考書で、野田高梧というのは小津安次郎監督と一緒によく脚本を書いていた脚本家ですね。
台本はかなり書き込まれていたのですか?
城戸:最初読んだときは、自分の役もそうですが本当に謎だらけで、戸惑いましたね。
―お三方は、シナリオを読まれて、どうお考えになりましたか。
城戸:キャラクターが魅力的でした。クロという役が名前もすごく好きで、読んだ瞬間からほんとうに魅力的な役だなと思いました。
斉藤:僕は、全くわからなかったですね(笑)。どういうものになるのかも想像がつかなかったですし、どうするんだろうなという感覚が強かったですね。
中泉:シナリオもシンプルだったんですが、わからない部分は監督と会った時に、こういうDVDを観てくれというのがいくつかあったので、それでだいぶわかりやすくなったなと思いました。
―タイトルから分かるように、ジャン=リュック・ゴダールの有名な作品と同じタイトルで、きっと監督は映画がすごく好きなんだろうなと、作品を見てすぐわかりました。好きな映画を引用するというのはやっぱり楽しいですよね。
下手:数限りある映画を、これでもかというくらいに今回入れたと思います。たとえば、『太陽を盗んだ男』のオマージュの部分があったり。
―『太陽を盗んだ男』は長谷川和彦監督の作品ですね。他にもいっぱいありますよね。エドワード・ヤンへのオマージュも。
下手:そうですね。構造的には群像劇としてエドワード・ヤン。斉藤さんの役は、エドワード・ヤン作品の主演のイメージです。ただ、観てもらったのはアキ・カウリスマキの映画なんですが。
そろそろ、Q&Aに移りましょう。
Q.ポスターがすごく印象的です。映画もアート的な部分があったと思いますが、何かコンセプトや意味があるのでしょうか。
下手:ポスターは大黒大悟さんにお願いしました。好きなようにやってくださいと言ったら、白地に映像のカットをつけた、名前もタイトルもどこよりも小さいという(笑)。実際はボンっと大きな写真を載せようとも考えたのですが。現場のスチール撮影は僕がやっていました。なので、ほとんど撮れておらず、映像から抜いて、コラージュにしていただきました。
Q.ストーリーの途中で、女の子が一人出てきて、何もしゃべらずいなくなりますが、この作品全体でどういう役割があるのでしょうか。
下手:役者さんは我妻三和子さんという女優さんです。「3」しか表示しない、という基本コンセプトがありました。「砂糖いくつ?」で「3」。飛行機に乗って帰ろうとするとき、「出発は何時?」というのに対して「3」しか出しません。メインの3人の「3」の意味も含んでいて、彼らに何か影響を与えそうな一人という存在です。
我妻さんが登場するシーン。突然海の中に飛び込んできます。最初、完全にカメラを引いた状態で、3人が全く動かず釣りをしているところに、彼女だけ海へボンっと落ちるという感じで撮りたかったのですが、事務所からNGが出てしまいまして、何とかワンカットで撮れる苦肉の策を使って撮りました。あそこは考えましたね。
Q: 役者さんにあらかじめDVDを渡したということですが、それはどのようなDVDでしたか。また、役者さんによって渡す作品は変えましたか?
下手:城戸さんには『地下鉄のザジ』と『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』を渡しました。フランス映画という点では同じですが、それぞれザジとジェーン・バーキンという年齢の離れた女性が主人公です。それらを混在することが映画の前半部分の役作りに活かせるのではないかと思い、イメージして渡しました。斉藤さんには、カウリスマキの全作品を渡しましたが、1本しか観ていないと言っていました(笑)。そして中泉さんには、『アニー・ホール』を始め、ウディ・アレンの作品をほとんどお渡ししました。
―ご覧になってどうでしたか?
城戸:ジェーン・バーキンさんの役のふてくされた感じはよく出せていたかと思いますし、東京の街を走ってバンドの人たちと遊ぶようなポップなシーンでは、(ザジのような)かわいらしさを表現できていたかなと思います。
斉藤:僕は1本しか観ていないのですが、すごく好きだなと思いました。カフェイン中毒の男とアルコール中毒の男という設定がすごく馬鹿げている一方で、映画は淡々と進んでいくというギャップがすごく面白いなぁと思いました。この作品の脚本とそのカウリスマキの作品を考えたときに見えてくる世界というものがあったので、すごく役に立ちました。
中泉:実は、僕はもともと『アニー・ホール』のDVDを持っていました。ウディ・アレンは自身の容姿で観客を笑わせてしまうので、非常に無茶な注文をしてくる人だな(笑)と思いました。
―準備から撮影までの流れはどうでしたか?
下手:脚本の執筆が2年、準備が6か月、撮影が2週間でした。最初は1人で準備していたところにプロデューサーの大日方さんが加わり、若松孝二監督の『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』で助監督をやった山城さんも当初2週間の予定だったのを結局6か月いてもらい、カメラマンの灰原さんも一緒にロケハンに行くなど、本当に少人数で準備を進めていきました。普通の撮影は夜中までかかることが多いと思いますが、僕たちは夕食の時間くらいには撮影を終えるように心掛けていました。また、ほとんどワンテイクしかとらないということも決めていて、役者にはワンテイクで撮るから集中してやってくれと話をしていました。実際に、この映画の尺は100分ですが、全部で180分弱しか撮っていません。
Q:ダルマさんが転んだをするシーンで、海岸に降りるとみんながいなくて1人になっているとか、誰もいなくて1人になるシーンが印象に残っています。何かへのオマージュかもしれないと思うのですが、監督としてはどのようなことを表現されたかったのですか?
下手:質問いただいた2つのシーンは僕のオリジナルなのですが、脚本を書いている時点で、実は僕は「だるまさんが転んだ」を勘違いしていたんですね。ああいうものだと思っていました。虚無感とは言わないまでも、1人1人の精神の自由さをどうにか表現できたらな、常に人間は1人であり、個人の意志を重んじる映画にしたいなと思っていたので、ああいう形にしました。