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2012.10.22
[イベントレポート]
10/21(日)アジアの風部門『ライフライン』:Q&A

10/21(日)、アジアの風出品作品『ライフライン』の上映後、モハマド・エブラヒム・モアイェリ監督によるQ&Aが行われました。
 

©2012 TIFF

 
まずはひとことご挨拶をお願いいたします。
 
モハマド・エブラヒム・モアイェリ監督(以下、モアイェリ監督):みなさん、おはようございます。お越しいただきありがとうございます。今回、この映画のインターナショナル・プレミアが東京国際映画祭で行われ、とても嬉しいです。初めての東京滞在、映画祭参加をとても楽しみにしております。
 
監督さんは児童映画をたくさんお撮りになって、大人向けの映画は今回初めてと伺っておりますが。
 
モアイェリ監督:この映画が4本目で、前の3作とも青少年の話、児童映画だったのですが、今回は大人向けにしようと思い、題材も慎重に選びました。
 
舞台になっているのはイランの北部とお見受けしますが、監督もそちらのご出身ですか?
 
モアイェリ監督:そうですね。ロケはマザンダラン州というカスピ海沿いの州で行いましたが、自分も高校卒業まではその地域で育ち、大学はテヘランに出ました。もちろん自分が生まれ育った土地なので習慣や地理的なものも知った上でロケをしましたが、それでもこの映画を撮るためにたくさんリサーチをし、できるだけドキュメンタリータッチでこの映画を撮ることにしました。
 
俳優さんたちが見事に登ったり降りたりしていますが、あれは本当にみなさんがなさったのか、それともプロフェッショナルな方を入れて撮っておられるのか?
 
モアイェリ監督:実はこの映画に出演していただいている方たちは3種類あります。主役をやっているプロの役者、実際の鉄塔の作業員を使い、そして、地元で鉄塔の仕事をある程度経験してテレビなどに出ている人たちも使っています。素人とプロが混じって出ています。
 
まさにドキュメンタリー的ですね。
 
鉄塔作業員という仕事がメインの内容となる映画ですが、そうした人たちの仕事ぶりを撮ろうとした動機を教えてください。
 
モアイェリ監督:題材を選ぶのは監督や製作者の好みもあるのですが、鉄と森、自然と人間のぶつかり方、コミュニケーションの取り方を題材にしようと思っていました。高い所の撮影になるので、大事に撮らなければならなかったのですが、できるだけドキュメンタリーを意識した、人間と自然と鉄という3つを合わせたドキュメンタリーを撮ろうと思いました。監督としてはドキュメンタリータッチで、できるだけ普通の生活や仕事ぶりに手を入れないような自然に撮ろうとしました。もちろん自分のシネマティックな好みでもあるのですが、自分の選んだ題材には正直であり、普通の生活を正直に撮ろうとしました。
 
この映画を早くから紹介したいと思っていて、部門としては、アジアの風がいいのか、natural TIFFにするかと考えていましたが、結局アジアの風にしました。ご覧のとおり、文明つまり電力と自然との関わり、その中で働く人間つまり労働とが非常に色濃く絡み合っています。日本も電力が問題となっていますから、ぜひ紹介したいと思ったわけです。
 
作品の中でカエルやカニがクローズアップになるシーンやヤギが通るシーンが比較的長いショットだと感じたのですが、個々に何かメタファーがあるのかどうか、ひとつひとつの動物に何か思い入れがあるのか、お伺いしたいです。
 
モアイェリ監督:映画の中にはドラマがあって、そのドラマを続けなければならないのですが、実際に自然の中にいる人たち、自然とテクノロジーのコントラストをどこかで出さないといけないと思いました。要するに、いくつかのシーンで自然の生き物を使えば、隠れた意味合いですが、ドラマの面でもテクノロジーのためには自然が人の手によって変わっていく様を描くことができ、コントラストを出せばみなさんがもっと理解できるのではないかと思いました。ドラマを続けていくために、ところどころで自然とテクノロジーがぶつかり合い、コントラストを出していきました。
 

©2012 TIFF

 
この映画では現在のイランの景色、それもインパクトのある景色が多く描かれていましたが、あれは監督の好みなのか、あるがままの景色なのか、それとも特別な景色なのでしょうか
 
モアイェリ監督:イランは自然豊かな国なので、砂漠も山も森もあります。ロケは森に近い町で行ったのですが、それは自分が考えていたドラマを表現するには森に近い場所がいいと考えたからです。高い山や森の景色が描かれているのは、そういう理由です。
 
日本の建設現場と比べて異なる点が多くて驚きました。日本は安全重視なので、事故防止策が徹底されています。映画の中に出てくるような鉄塔を日本で作ろうとすると、もっと時間がかかると思います。しかし、映画の中では安全対策が省略されていて、かなりのスピード作業でしたが、イランでは映画の中で起こったような事故は実際にも起こっているのでしょうか。また、安全対策は重視されていないのでしょうか。
 
モアイェリ監督:労働者たちは命綱やヘルメットがない方が作業しやすいと感じているんですが、安全対策を怠るとこうした事故が起こる、というメッセージもこの映画には含まれています。この映画の主役の1人は、大学を卒業して建設現場に入り、地元の作業員たちを教育していくんですが、これも1つのメッセージです。現場の作業員たちは、安全面をきちんと徹底していかなければならないと伝えたかったんです。
 
鉄塔の上でケンカをするシーンがありましたが、あれはどうやって撮影したんですか?
 
モアイェリ監督:手持ちカメラやクレーンカメラを使いました。あとは、同じ高さの鉄塔を作って撮った場面もあります。
 
バイクを乗り回すチンピラっぽい人たちが出てきますが、イランにもチンピラや不良はいるのでしょうか。
 
モアイェリ監督:どこの社会にもチンピラや不良のような人たちはいると思います。
この映画の主役は、社会的にタイプの異なる2人の男性です。1人は大学を卒業して町に戻ってきていて、もう1人は子供の頃から教育も受けずに作業員として仕事をして育ってきています。最後に登場するチンピラたちは、ずっと町で仕事をしてきた労働者たちを守るためにやって来るんです。
大学を卒業した知識のある人々と、町育ちの労働者たちのコントラストは、映画全体を通して描きたいと思っていました。
 
宗教的な描写が一切なかったと思うのですが、それには理由があるのでしょうか。
 
モアイェリ監督:宗教的、イスラム教的な描写ですが、お気付きになっていないだけで、端々で描かれています。たとえば、埃っぽい場所で鉄塔を立てているシーンでは、現場監督が土を触り、顔を触り、手を触ってお祈りしています。これも1つのお祈りなんです。少しずつ描写しているんですよ。
 
最後に一言、お願いします。
 
モアイェリ監督:日本で公開できたことに、とても大きな意味があります。なぜなら、私は映画を黒澤 明監督や溝口健二監督などの作品から学んだからです。日本でプレミア上映することができ、大変嬉しく思います。ありがとうございました。

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