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2012.10.26
[イベントレポート]
「子役の少女はまたとない贈り物でした」――10/23(火)コンペティション『メイジーの知ったこと』:Q&A

10/23(火)コンペティション『メイジーの知ったこと』の上映後、スコット・マクギーさん(監督)、デヴィッド・シーゲルさん(監督)が登壇し、Q&Aが行われました。
メイジーの知ったこと

©2012 TIFF

 
矢田部PD(以下、矢田部):スコットさん、デビッドさん、愛すべき作品を東京まで持ってきてくださり光栄です。
 
スコット・マクギー監督(以下、マクギー監督):ご覧になっていただきありがとうございます。東京国際映画祭への参加は初めてですが、素晴らしい観客と出会えることができて、大変うれしいです。
 
デヴィッド・シーゲル監督(以下、シーゲル監督):トーキョーに来ることができて、本当にうれしいです。初めて来日したのは私たちの最初の長編『Suture』(1993)を上映したときのことです。サンダンス・フィルム・フェスティヴァルに出品した流れで、当時開催していたサンダンス・イン・トーキョーで上映されました。久々に日本の土を踏むことができて感謝しています。
 
矢田部PD:『綴り字のシーズン』は少女が両親の離婚危機を救う物語でした。今回はヘンリー・ジェームズの小説の映画化ですが、テーマはとても似ていますね。意識的な選択だったのか、それとも単なる偶然でしょうか?
 
マクギー監督:僕たちは2人で仕事をしているので、一体、何が互いの心を引き寄せたり引き離したりするのか、他の人以上に興味があるのかもしれません(笑)
メイジーの知ったこと

©2012 TIFF

 
シーゲル監督:この作品は6歳の女の子の視点から両親の離婚を描いた作品です。一方、『綴り字のシーズン』は家族そのものを描いた作品です。そこに大きな違いがあります。
 
Q:素晴らしい映画をありがとうございます。似通った題材の映画が多いものですから、あまり期待しないで観にきましたが、心に触れる作品で大変気に入りました。ずっと2人で監督されているそうですが、なぜそうされているのですか。役割分担など、どうされているのでしょう。
 
シーゲル監督:かれこれ20年くらい一緒に仕事していますが、このやり方でしか作品を作ったことがありません。2人とも映画学校に行ったことがなく、独学です。短編を作っているときから、ずっと一緒にやっています。ほぼ100パーセント、協力しながら作品を完成させてきました。撮影現場では別々の役割をするときもありますが、ほとんどの場合、2人で演出しています。スコットの態度が悪いときは別ですけどね(笑)。
メイジーの知ったこと

©2012 TIFF

 
マクギー監督:親切な言葉をくださり、ありがとうございます。一言だけ付け加えると、実は僕たちも最初は同じ気持ちを抱いていました。よくある離婚劇のひとつで、ありきたりな話じゃないかと。『綴り字のシーズン』も作ったし、何か新しいことができるのか不安だったんです。ただし6歳の少女の視点から描くところに、新鮮味を感じました。軽妙さとか、可愛らしさみたいなものが出て、ありがちな離婚劇にはならないと。それでも、メイジーを演ったオナタ・アプリールに出会うまでは不安でした。私たちにとって、彼女はまたとはないギフト――贈り物でした。
 
矢田部PD:他を聞きそびれても、ぜひ、そのことだけは伺いたいと思っていました。メイジー役のオナタちゃんの可愛さに、もうほんとに心奪われてしまうんですが、どういう経緯で役に抜擢したのでしょう。彼女はもうひとつのコンペティション出品作『イエロー』にも小さな役で出演していますね。
 
シーゲル監督:キャスティング・ディレクターのエイビー・カウフマンが見つけたのです。実は彼女も『イエロー』を観てオナタのことを知りました。3週間後に撮影が始まるという切羽詰まった段階での抜擢でした。なかなか子役が決まらず焦っていたのですが、エイビーが「大丈夫。リラックスして。ちゃんと見つかるから」と言ってくれて、ようやく巡り会えたときにはほんとにうれしかったです。いまスコットが言ったけれど、彼女がギフトだったというのは、決して言い過ぎではありません。才能があって、自然な演技ができるだけでなく、毎日現場を活気づけるよいスピリットを持ってきてくれる。伝染性の元気さと言ったらいいのか。それで映画作り自体が特別なものになっていったのです。
 
マクギー監督:オナタの父方の祖母は日本人です。だから、彼女には日本人の血が4分の1流れています。
 
Q:身勝手な大人のなかで健気に振る舞うメイジーの純粋さに心打たれました。彼女の気持ちを浮き彫りにしようと、いろんな工夫をされていますが、人物造型としてはどんなことに留意されましたか?
 
マクギー監督:興味深い質問ですね。先ほど話に出たように、この映画はヘンリー・ジェームズが100年以上前に書いた小説をもとにしています。無垢な少女と身勝手な大人という設定は原作どおりですが、原作はもっと暗い話で、最終的にメイジーが頼れるのは年老いたウィックス夫人――映画ではナニーさん――という、お金のために仕える人物しかいない。それに対して私たちは、イノセントな少女像を生かしながらも、メイジーが自分の家族と世界を再構築していくという展開を試みました。
 
Q:撮影上も工夫が見受けられましたが?
 
シーゲル監督:カメラワークやフレームについては考え抜きました。いちばん配慮したのは、カメラの高さです。メイジーの目線から世界を見せようとしました。編集段階ではさらにそれを徹底させて、極力、彼女の視点ではないものを排除していきました。
 
Q:見方によっては、大人がメイジーに助けられているというふうに思えますが、メイジーは何を知り、何に助けられているのでしょう。
 
シーゲル監督:原作とは異なるストーリー展開になっていますが、タイトルが示唆する自己救済という主題は共通しています。メイジーはマーゴとリンカーンからなる新しい家族を形成しますが、最後に、ほんとうの母親に言いたいことを言う。それは彼女が自分を救うために、しなければならなかったことです。走っていく姿で終わるのは、この映画には結末がなく、メイジーが幼いながらも自分の人生を歩み始めたことを表しています。私たち2人にとってこれまでのフィルモグラフィーと違う点は、テーマとか、哲学的観点とか、アイデアについての映画ではなく、一瞬一瞬の実存的な経験を描くことに焦点を当てたことです。編集の際にも、メイジーが場面ごとに違う存在になっていくのを、よりダイナミックに伝えようと意識しました。
 
Q:ハンバーグの生肉やチョコレート・ケーキなどの食べ物が出てきますが、キャラクターの特徴や関係性が象徴されているのですか?
 
矢田部PD:スコットさんは日本語がお分かりになるので、いまクスッと笑いましたね。
 
マクギー監督:革新的な質問をしていただき感謝します(場内爆笑)。たしかに食べ物の場面はたくさんあります。また子供を寝かしつける場面も多いのですが、それらは自分たちが子供のときのことを思い出して演出しただけの話で、テーマやキャラクターの象徴的意味合いについては、ご質問者ほど意識しませんでした。そこまで考えてくださってありがとうございました。
 
Q:矢田部さんのブログでも読んだのですが、場面ごとに替えているのかと思えるほど、メイジーにはたくさんのコスチュームを着せていますね。暗くなりがちな場面でも彩りを添えていて興味深かったのですが、どんな意図でこんなに多く使ったのですか。また、印象に残ったものがあれば教えてください。
 
シーゲル監督:コスチュームを担当したのは、『ハーフ・デイズ』でも組んだステイシー・バタットです。大変才能のある女性です。メイジーは子どもらしい軽妙さのあるキャラクターで、彼女の心持ちは周囲で起きていることと少々異なる。周囲では切羽詰まった話が展開されているのに、彼女自身はその周辺にいる。そうしたコントラストを見せるために、軽さを強調したドレスを選びました。カラフルでファンシー、軽妙というアイデアは、ステイシーとこの映画のプロダクション・デザイナー、スコットの妹でもあるケリー・マクギーによるものです。
 
マクギー監督:コスチュームが成功だったと知った瞬間があります。撮影後しばらくして撮り直しをする必要があって、倉庫に行ったときのこと。保管していた箱を開いたら、多くの衣装が無くなっていた(笑)。気に入って持って行ってしまったわけで、それこそ、ステイシーの仕事が成功した証です。
 
矢田部PD:ジュリアン・ムーアさんのようなハリウッド・スターと新人の子役を一緒に演出する点で、どんなご苦労をされましたか?
 
シーゲル監督:ジュリアン・ムーアは早い段階で脚本を読んで、興味を示していました。私とスコットが参加したときにはすでに彼女がいました。炎のような強さと脆さの双方を演じさせたらピカ一の女優じゃないかと思います。オナタにもとてもよくしてくれて、キャスティングの前に会って、2人でできるかどうか試してくれました。私たちの方で仕向けたことではなく、スッと入ってきてくれました。オナタの演技があまりにも自然だったので、ジュリアンをはじめとする大人の俳優たちは、カットの声が掛かった後、思わず顔をしかめたくらいです(笑)。大人の俳優たちが何年もかけてできるようになったことを、ぽっと出の女の子がさもありなんと演じてしまう。毎回、どうなってるんだというしかめ面を目にできて、とても面白かったです。
 
矢田部PD:この映画は10月27日の土曜日にもう一度上映されます。その時にもQ&Aがありますので、もう一度観たいという方はぜひご来場ください。有り難うございました。

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