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2012.10.30
[イベントレポート]
「若い人たちの中で映画を撮りたい、映画製作に進みたいという人たちが増えている」―10/22(月)アジアの風-ディスカバー亜州電影~伝説のホラー&ファンタ王国カンボジア『ゴールデン・スランバーズ』:Q&A

10月22日(月)、アジアの風-ディスカバー亜州電影~伝説のホラー&ファンタ王国カンボジア『ゴールデン・スランバーズ』の上映後、ダヴィ・チュウ監督によるQ&Aが行われました。
『ゴールデン・スランバーズ』

©2012 TIFF

 
ダヴィ・チュウ監督:本当に朝から、このように映画を観に来てくださったことを、お礼申し上げます。たくさんの方にご覧いただけて、関係者の方をはじめ、TIFFに僕を呼んでくれたこの機会に感謝したいと思います。僕の映画だけではなくて、ティ・リム・クゥン監督の作品上映がこの日曜日にありますので、そちらのほうにも来ていただけたらと思います。
 
司会:私からいくつかお聞きしたうえで、皆さんとの質疑に入りたいと思います。その前に一つ訂正があります。紙のカタログの方で間違えてしまいまして、『ゴールデン・スランバーズ』の中に『怪奇ヘビ男』のティ・リム・クゥン監督も登場すると書いたのですが、これは間違いでして、「ヘビ男」の名前が言及されるだけで、映画に出てきたご高齢のもう一人の巨匠の方は別の監督になりますのでお詫びいたします。
 
それでは、最初に監督にお聞きしたいのですが、この作品を作られたプロセスをお話しいただけますか?
 
監督:僕の両親は、ポル・ポト政権になる前の1973年にフランスに移住したので、僕自身はフランスで生まれ、カンボジアという国は自分の中ではあまりはっきりした概念がないまま育ったんですね。たぶん、僕の祖父にあたる人が、カンボジアの映画界に関わっていたことをなんとなく知っていて、映画の冒頭でフランス語で話している女性はおばですが、彼女から、彼女の父親である祖父が、非常に重要なカンボジア映画界のプロデューサーとして60年代から70年代に活躍した人だということを知りまして、俳優だったり、そのほかにも映画界のことをいろいろ教えてくれて、そこからリサーチを始めました。ただこうした多くの当時の映画人は、ポル・ポト政権時に、殺されてしまったんですね。そこから関心を持って、映画に着手しました。
ただリサーチを始めようにも、僕自身、カンボジアに行ったこともないし、言葉も分からない。そこで2009年にカンボジアに移住し、1年半、そこに滞在しました。最初の一年は資料を集めることに費やして、最初はおじいさんがどんな人だったのかなという関心で出発したんですけれど、何名かまだご存命の方がいらっしゃって、そういう方々にお会いしたことで、じゃあ、今生きている方にフォーカスしようというふうに、視点がシフトしました。
 
司会:ダヴィさんは29歳で、今回いらっしゃった最年少監督なのですが、一方の今週末にTIFFにいらっしゃるティ・リム・クゥン監督は80歳くらいでいらっしゃるんですよね。こちらが最年長監督になるんですね。カンボジア特集というのは、若い世代の発掘に始まったことと、ご存命のご高齢の方がフィルムを持っていらして、それがやっと今ドッキングしてひとつ特集を組むことができたということでもあるんですね。
 
監督:それは象徴的ですね。ありがとうございます。
 
それでは皆様からの質問をお受けしたいと思います。
 
Q:今日は本当に文化的にも歴史的にもとても興味深い映画をありがとうございました。ふつうでしたら、あいだあいだに昔の映画のシーンが入ってくるのが、それが外国賞の映画しかないのがとても悲しくて、こういうことがあってはいけないなと思いました。質問ですが、最後に煉瓦の壁に映っていたのがなんなのかが気になったのと、途中でかつての名作のワンシーンを再現するという試みがあったのですが、その再現したフィルムが本編では使われてなかったのはなぜかというのをお聞きしたいのですが。
 
監督:質問ありがとうございます。最初にリサーチをしたときに、まず映画を探したんです。国立アーカイブにも、リサーチセンターにもなくて、流通していないということで、以前のことを知っている方に伺うと、もう40年、当時の映画にはお目にかかっていないし、若い人も親から聞いただけだということで、物理的な映画を探すことができなかったんですね。そこでドキュメンタリーを、映画を見せるということよりも、映画は消滅したけれど、過去の記憶を持っている人たちの中で、何が残ってどういうかたちで、たとえば音楽など、人の記憶として残っているのかに着目することにしました。
 
 じつは映画を探すと30本ほど見つかったんですね。この30本はデジタルで、当時のVHSなどから起こした非常に質の悪いもので、そのうち10本ほどは鑑賞に耐え得るものでした。ただこれは、カンボジア映画が好きな、国外の40、50人ほどの人たちがネットでシェアしていたんものなんですね。はたしてこれらを使うかどうかということが、僕に課せられた一つのテーマだったんですが、2009年当時のカンボジアに忠実なかたちにしたいと思いました。つまり実際に2009年にカンボジアの映画を観ることは、一般的にはできないわけです。でしたらその状況を真摯に表現したいと思ったんです。物理的に映画はなくても、人々は憶えている。その記憶を辿り、その記憶がどう息づいているかを、より映画に反映したいと思い至りました。そしてもう一つ、映像を使わなかった理由は、いま私たちは日々youtubeやfacebookなど、イメージを見ては消費する、つまりイメージがファーストフードのような状況になっていて、イメージの価値が非常に低いものになっている。そんなふうにいとも簡単にイメージが手に入ると、イメージの貴重性を私たちが尊重できないようになっている。それだったら見られないものを逆にずっと見せない、見せないことによって溜まるフラストレーション、じつは簡単に見られない映像なんだ、それを観たいという願望を掻き立てて、最後の最後に見せれば、もしかしたら皆さんが見たものを覚えていてくれるかもしれないし、そこで一番気持ちが高まった貴重な映像になるかもしれないと思ったんです。
 
それでその中から5本の映画を使うことにしました。リー・ブン・イム監督の『12 シスターズ』、『ホワイトロータス』という作品と(映画に出てくる順番にタイトルの名前を挙げる)、あとカップルが自転車に乗っているこの映画の最後のは、当時非常に人気のある俳優を起用した作品でした。
質問に答えるダヴィ・チュウ監督

©2012 TIFF

 
Q:最後の映像が、当時の実際の映画だったということですよね?
 
監督:そうです。そして、二つめのご質問の、なぜ撮ったものを映さなかったのかということですが、じつは、すでに見ることができないこの映画を、どういうふうに撮ったかという情報に基づいて、若い人たちが撮ろうとしている状況、撮っているというよりも、彼らが相談をして組み立てているその過程にとても興味を持ちました。ですから何かを撮ってそれを映すという目的ではなかったんですね。たとえばここで裸になるべきかどうか、というような、そういうものが想像以上に面白いものになったので、その雰囲気を見せたいと思ったんです。40年前にこうであったかどうかはわからないけれど、そういう行為を撮りたかったんです。
 
Q:最初、カンボジアの映画史紹介の映画かなと思ったのですが、そうではなく、ポル・ポト政権時代の人々が映画を大切にしてきたこと、またポル・ポト政権時代とそれ以降の近代におけるカンボジアの人たちの苦しみ、庶民の苦しみ、そして現代の人々の生活を映すことによって、ただの映画史をなぞるだけのドキュメンタリーではない、すばらしいドキュメンタリーになっていると感じました。
質問ですが、カンボジアにおける映画作り、映画の未来に対して監督はどのように考えているか教えてください。

 
監督:コメントありがとうございます。それに関連してなんですけれども、映画をテーマにしたものですが歴史的ドキュメンタリーを撮ろうということではなく、当時の映画の亡霊というのが今も存在している。過去だけではなく、今、その亡霊がどこにいるんだろうか。その亡霊がいる場所というか、若い人が映っているカラオケだったり、映画館であったり、ビリヤードするところであっても、そういう残像があるんだということを見せたかったんです。
カンボジア映画製作の現状はというと、本当に数少なく、映画学校も公共のファンドもありません。ただ、方向としてはいい方に向かっていると思います。というのも、「カンボジアフィルムコミッション」というのが今、設立されていて、外国の撮影の誘致ですけれども、カンボジアで撮影することによってローカルなクルーが外国の人と一緒に撮影する機会がある。それとともにワークショップも企画されていて、ドキュメンタリーの作家としても知られるリティー・パニュ監督がワークショップを行いました。また、今年の12月にはカンボジア国際映画祭の第三回目が開催されることになっています。
そして、非常にぼく自身もうれしいなと思うのが、若い人たちの中で映画を撮りたい、映画製作に進みたいという人たちが増えていることです。ですのでぼくは非常に楽観視していますし、たぶんこれから4、5年の間になにかいろいろ出てくると思います。
 
最後にメッセージをお願いいたします。

 
監督:10月28日にティ・リム・クゥン監督のカンボジア映画2作品の上映がありますが、これは本当に奇跡と呼んでいいと思います。この60年代の映画は本当に見る機会がなく、今年のベルリン国際映画祭で上映されて、そして東京へ。実はまだ、フランスでもカンボジアでもこの2作品は見る機会がないんです。監督も現在お住まいになっているカナダから来日されますが、この2作品は非常に美しい映画です。
 そして、この機会から映画の修復という話も出ています。デジタル化も進んでいくと思いますので、みなさんがさらに見る機会があればと願っております。みなさん、本当に映画をご覧いただきありがとうございました。
ダヴィ・チュウ監督

©2012 TIFF

 
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