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2012.10.24
[イベントレポート]
「亡霊と愛は同じもの」――10/21(日)コンペティション『黒い四角』:Q&A

10/21(日)コンペティション『黒い四角』の上映後、奥原浩志さん(監督)中泉秀雄さん(俳優)鈴木美妃さん(女優)が登壇し、Q&Aが行われました。
黒い四角

©2012 TIFF

 
Q&A司会は矢田部吉彦プログラミング・ディレクターです。
 
矢田部PD:中泉さんと鈴木さんは上映前の舞台挨拶で、今日初めて完成した作品を観ると話していましたね。ご覧になって如何でしたか?
 
中泉:すぐに感想は出ませんけれど、全然関係のないところで涙が出てしまいました。ほんとに手作りで作った映画で、照明のチーフに日本人の方が入ったのですが、その補佐についたのは中国人で、チーフの方は中国語がまったく話せない。それでも2人でやりとりをして作業が進んでいった。映画を観ていてそのことを思い出すうちに、グッと来てしまいました。
黒い四角

©2012 TIFF

 
鈴木:中泉さんと同じですぐに感想は言えません。中国で女優として仕事をしていて、ふだん、日本人は自分ひとりという現場にいますが、今回は日本人と中国人がほぼ半々で新鮮でした。久しぶりに日本人の監督と組んだこともあって、一場面一場面に思い入れがあります。
黒い四角

©2012 TIFF

 
矢田部PD:黒い四角というユニークな発想は、一体どこから生まれたのでしょうか?
 
奥原:2~3年前に別のかたちの脚本を書いていましたが、北京郊外の芸術家村に来て、知らない人ばかりで言葉もできない。そうしたなかで、ここの風景がSFのように思えてきました。未知の土地に何の知識もなく、知り合いもいない状態で行った感じと、SFのように見えてきた風景にインスパイアされました。
 
矢田部PD:『2001年宇宙の旅』のモノリスから着想されたのかとも思ったのですが?
 
奥原:たとえば、キティちゃんでもよかったのですが、それだと観客がなぜキティちゃんなのと気になってしまう。最初は立体にしようかとも思ったのですが、物語とのバランスで、黒い四角がいいのではと思いました。チャオピンが売れない画家という設定で、売れたい一心でキャンバスを黒く塗りつぶす。そうした行為から喚起されるものとして、物語との相性もいいと感じました。
黒い四角

©2012 TIFF

 
Q:中泉さんの寡黙な演技も相俟って、後半の切ないラブ・ストーリーの展開に感動しました。でも前半の芸術村の部分は、後半とはあまり関係ないエピソードのような気もします。そうした要素を取り入れたのはどんな狙いがあったのですか?
 
奥原:主要な登場人物が4人と少ないため、チャオピンと黒四角との一見何でもないような関係性を描くことが、その後の1940年代の物語を深めることになると思いました。2人の出会いの場面や、路上で食べている場面があるからこそ、後半が生きてくるのだと思います。
 
Q:基本的には恋愛映画だと思うのですが、過去のパートを日中戦争の時代にして、日本の軍人を登場させたのは、どんなメッセージを籠めようと思ったのですか。また、中国での公開の可能性についてもお聞かせください。
 
奥原:それまで本などで読んでいましたが、中国に行ってから、日中戦争に本格的に興味を持つようになりました。最初の段階では死者に関する映画を作るつもりでしたが、中国で日本人が主役で、しかも死者ということから、日本兵という設定にしました。脚本を書き進めるうちに、亡霊と愛は実は同じなのではと思えるようになって、そう気付いてからは執筆がはかどりました。中国での公開ですが、中国人のプロデューサーの方に助けてもらっていて、その方が中国向けに編集し直したうえで公開してくれることになると思います。
 
矢田部PD:中泉さんはかなり変わった役柄でしたが、どんなふうに役作りをされたのですか?
 
中泉:監督が北京で撮ると話していたので、「何でもいいから使ってください」と伝えたのですが、そのうちに連絡を貰ったら主役でした。そこで「僕、頑張ります」と言うと、監督は「動かないのが主役だから」と(笑)。最後に「わからないけど」と付け加えるのが監督の癖で、この時もそうでしたけど。監督からはトニー・レオンの名前が出たので、作品を観て研究しました。あと監督には細かいところがあるので、その都度、現場で対処しました。
 
矢田部PD:鈴木さんは役作りについて、どんなふうに臨んだのでしょう?
 
鈴木:私の場合、監督からの要望というのは特にありませんでした。等身大の役柄で、もともと、私のために書かれたのではないかという感じだったので、すごく演りやすかったです。あまり考えすぎると出来なくなってしまうので、考えずに自然に演じました。
 
Q:いろんな伏線に富んだ映画だと思ったのですが、亡霊と愛という先ほどの話に心惹かれました。いちばん伝えたかったことは、「人は消えても想いは消えない」ということでしょうか?
 
奥原:素晴らしい。映画祭に出品するときに、キャッチコピーを考えなければならず大変苦労しましたが、それにすればよかったなあ(笑)。そういうことです。
 
Q:「どこかで会ったことがある」という感覚と、「ひとりとして同じ人間はいない」という思いを強調されていて、とても印象深かったのです。中泉さん演じる黒四角が現実の世界に唯一残したものが、リーホワの似顔絵ですよね。そこには何か特別なメッセージがあったのですか?
 
奥原:わかりやすい解釈をすれば、戦争中に渡せなかった絵を渡しに来たということです。

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