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2012.10.31
[イベントレポート]
「折り紙を撮るためにこの映画を作りました」―10/24(水)コンペティション部門出品作品『ニーナ』:Q&A

10/24(水)コンペティション『ニーナ』の上映後、エリザ・フクサスさん(監督/脚本)、ナタリー・クリストィアーニさん(編集)が登壇し、Q&Aが行われました。
ニーナ

©2012 TIFF

 
エリザさん、ナタリーさん、本当に瑞々しいデビュー作品を東京に持ってきてくださってありがとうございます。まずは会場のお客様にひと言ずつご挨拶をお願いします。
 
エリザ・フクサス監督(以下、フクサス監督):とてもシンプルな言葉になりますが、ありがとうございます。映画というのは、見てくださる方がいて初めて存在すると思うので、感謝しています。皆さんが初めての観客となりますので、この映画は今日生まれたと言えると思います。
 
ナタリー・クリストィアーニ(以下、クリストィアーニさん):ありがとうございます。これが初めての上映なのでとても嬉しく思うと同時に、感動しています。私たちにとって今日は非常に大きな1日です。自分たちが思っているほど素晴らしく思っていただけるか不安ではありますが、私たちは素晴らしい映画になっていると信じています。
 
初監督作品としてこの映画を撮られたわけですが、作品に自分を反映させたような部分はありますでしょうか。作品の誕生の経緯をお聞かせください。
 
フクサス監督:優れた監督になると、自分以外の物語も語ることができるのかもしれませんが、私にはまだ無理だと考えました。自身を面白い人間だとは思ってはいませんが、最初の映画はやはり自分の感情に近いものを選ぶべきだと考えました。この映画は、ある意味実存的なプレカリアート(不安定な労働者階級のこと)のようなものを扱っています。それは社会派の映画を私が様々な理由から撮れないこともありますが、この映画を撮って、「未来が全く見えない」という不安は私や若い人たちだけでなく、色々な人が共通に感じていることだということがわかりました。
 

台詞が素晴らしく感動しました。字幕もすごくよかったです。この映画では、漫画や折り紙など日本のものがよく出てきていますし、主人公のニーナは中国に行きたいと言っています。イタリア人のアジアに対するイメージをぜひ教えてください。
 
フクサス監督:私自身は、この映画を撮る前から、折り紙が日本のもので漢字が中国のものというのは知っていましたよ。折り紙を撮りたかったのです。この映画のラストの2分半くらいしか出てきませんが、その2分半のためにこの映画を撮りました。質問してくれてありがとう。
 

©2012 TIFF

 
とても感動しました。おふたりとも知的で美しい方ですね。映画を作るために大学や学校に通われたのでしょうか?
 
フクサス監督:イタリア語で話してくださってありがとうございます。通訳の方が1分ほど休むことができました(笑)。映画学校には行っていなくて建築学を勉強していました。というのも、私はどうも自分がやりたいことを選ぶことがなかなかできなくて、自分がやりたくないものを選んでしまう性格のようです。たとえばレストランを選ぶとき、恋人を選ぶときも(笑)、自分にとって良くないものを選んでしまう傾向がありました。しかし今はそれをやめつつあります。
 実は、建築と映画は似ているところがあります。自分以外にも建築を勉強して映画監督になった方はいますし、映画を勉強するためのひとつの有益な方法だと思います。
 
帰り道にスキップして帰りたくなるような楽しい映画でした。質問ですが、アーチが続く建物や長い階段、柱廊などの建物がたくさん出てきますし、撮り方もユニークなものが多かったのです。どこで撮られたものなのか、作中の建物についてのこだわりを教えてください。
 
フクサス監督:やはり映画を撮るためには、はっきりとした意図が必要です。あの場所を選んだことにも自分の中にきちんと理由があります。場所を選ぶ自由も必要で、そういったディテールに関しても細かいところまで考えて撮った映画なのです。このような要素をキャメラに映したのは、1年半前の撮影当時の私がどのように世界を見ていたのかということが反映されています。今は時も流れて違う見方をしていますが、当時は選んだ場所をマニアックに撮っていたので、他の場所では撮ることができませんでした。その分、自分のイメージに非常に近い撮影ができたと思っています。
 
このロケ地はローマの近郊なのですか?
 
フクサス監督:エウル(エウローパ)という場所です。郊外ではなく、ローマの一部で素晴らしい所です。
 
ワールドプレミアで最初の観客として観たことを光栄に思っております。主人公が声楽の先生という設定や、クラシカルな音楽が印象的でした。現代的な音楽が使われるシーンや、エンディングテーマの曲もとてもよかったです。音楽の使い方にもこだわりがあったのでしょうか?
 
フクサス監督:この映画は私にとって最初の映画だったので、自分の中にあるいろんな要素を映画の中に入れてはっきりさせたいという思いがありました。その要素の中の今までやりたかったことの一つとして、ソプラノのオペラ歌手になりたかったというのがあります。いい先生に巡り合えずに辞めてしまい(笑)、それから2年はオペラを全く聞かない時期がありました。でもそのおかげで、この映画の中にはオペラがたくさん挿入されています。しかし主人公の女性が現代を生きている女性なので、現代の音楽も入れました。
 
素晴らしい映画でした。それまでのシーンは日常を描いていたのに対して、非現実的な巨大な折り紙のシーンがあり不思議に思いました。そこで表現したかったことや込められた意味などを教えてください。
 
フクサス監督:折り紙のシーンは非常に気に入っていて、できれば映画1本を折り紙で撮りたいくらいなのですが、製作費が高くなってしまうので2分半で止めました(笑)。冗談はこれくらいにして、あのシーンで折り紙を使ったのにははっきりとした理由があります。あのシーンの直前に主人公がいい音を立てながらビスケットを食べているシーンがあるのですが、そこはニーナが他の人と同じような普通の人生もいいのではないか、と感じているところなのです。しかし、映像は巨大な折り紙で作られたシーンです。私はあのような空想を現実に投影して見ることがよくあるので、自分にとっては普通の見方なのですが、他の方には普通ではない不思議な表現かもしれませんね。
この映画の中には動物がいっぱいでできます。折り紙のシーンでは、何かデフォルトされたものが本物の姿に変わるというよくある演出とは逆の発想で、本物の動物が本のページを折って作った紙の動物になるという逆転させた世界なのですが、自分のイメージの中ではこの発想は普通のことで、それを表現しただけなのです。私のイメージはいろんなものを変化させます。言葉というのも大きな要素としてこれに当てはまるのですが、言葉は現実を表しているものなので、どうもこういうイメージの発想が普通ではないという感覚が自分の中ではあまり感じられないでいます。ただ折り紙は日本のものです。その日本のお客さんに見ていただいて、何かあの場面で感じるものがあったというのはとても嬉しく思います。

 
ありがとうございます。エリザさんのデビュー作を東京で紹介でき、私たちは今後も応援してまいりたいと思います。最後に、編集のナタリーさんから見て、監督であるエリザさんのもっとも優れた点をひとつ教えていただきませんか。
 
クリストィアーニさん:彼女の素晴らしい点は、若い監督にも関わらず、何度も何度も脚本を書き直すことができるという点だと思います。私が携わった編集の際も何度も何度も編集し直すことができていました。これは若い監督にとっては非常に重要なことだと思います。主人公がオペラを聞くシーンなど、この映画の中にはたくさんの音楽が使われていますが、最初は普通の映画音楽を使おうと考えていたのです。しかし、編集していくうちに、監督の好きなオペラを使いたいという気持ちが強くなりました。例えば、テラスで主人公たち2人がモーツァルトの曲に乗せてダンスするシーンでは、今どきの若い人たちがモーツァルトの曲でダンスをするのは難しいのではとも考えましたが、モーツァルトの曲を使っています。彼女がオペラ好きなことがこの映画を作る助けになったと思いますし、私は、彼女のとてもオープンな心で物事に取り組めるというところが素晴らしいと感じています。
 

©2012 TIFF

 
ニーナ

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