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2012.10.27
[インタビュー]
公式インタビュー コンペティション 『ニーナ』

エリザ・フクサス監督(右)、ナタリー・クリストィアーニさん(編集・左) (『ニーナ』)
ニーナ

©2012 TIFF

 
 夏のローマにひとりたたずむ美しく孤独なニーナ。彼女は人気のない通りやシンメトリーと遠近法で描出される建築空間に引きこもっているかのようだ。
 
――ヒロインは風景に閉じ込められている感じがしますね。
 
エリザ・フクサス監督(以下、フクサス監督):そうかもしれません。ご指摘のようにシンメトリーの構図や遠近法といった古典的な美の構図が目立ちますが、本当は私自身はシンメトリーは嫌いなのです。ただ、私の分身でもあるヒロインがその空間にいることは確かです。
 
――世代気分ということでしょうか?
 
フクサス監督:そうです。
 
――するとあなたの世代は1990年代初期に発覚した政界の大規模な汚職を子供の頃に見聞きしているわけですね。ほとんどの議員がワイロに関わっていたことが次々明るみに出て政治が崩壊していたあの頃のイタリアに幻滅したり…。
 
フクサス監督:ええ、そうです。国は信用できません。イタリアの政権はしょっちゅう変わってきました。ですから国に守ってもらえるなんて期待できません。頼れるのは家族だけです。本当にイタリアの現状はひどい。貧しいなんていうどころかそのレベル以下ですから。
 
――ヒロインのニーナがあなたの分身というのはどういう意味で?
 
フクサス監督:魂とか感情といった個人的な意味で言うのですが、ものごとを遠くに感じたりする彼女の距離感が私と共通しています。また何か抑えられているという感覚も私とニーナは共通しています。ニーナはいろんなことをしますが、何をしたいのか、決められないのです。とても不安定です。未来に向けて自分から希望することがありません。彼女は演劇をしたり、歌もやったり、中国にも行こうと思ったりします。実際、歌も上手で演劇の才能も豊かです。しかし、本当に何をしたいかそれをニーナ自身感じられないのです。
 
――そのことでニーナが悩んでいるというより、とてもオシャレな印象を受けました。
 
フクサス監督:ニーナは私が生み出したヒロインであり、作品です。私が抱え込んだものがたとえ混沌とした醜いものであったとしても、それをアートとして美しい作品として作り変える、いわばリサイクルしていくのが芸術の役割だと思います。
 
――ローマの場所の選び方はどのようにしたのですか?
 
フクサス監督:私はローマ生まれですが、この映画ではローマらしくない場所を選びました。遺跡も観光名所もない、どこか未来的な雰囲気の漂う地区です。その場所で不安定性や未来について何も予測できない私たちの時代の感覚を描こうとしたのです。決してニーナの感情はアブノーマルなわけではなく、私たちの世代感覚に共通のものです。
 
――ファシズム時代にムッソリーニによって作られたエウロ地区ですね。古代ローマ帝国のレプリカだと、ピエル・パオロ・パゾリーニがTVドキュメンタリーのなかで言い、最も醜い場所だと呪詛していました。
 
フクサス監督:パゾリーニがそんな風に言ったとは知りませんでした。ムッソリーニが作った地区にはちがいありませんが、この映画では政治的な意味はありません。パゾリーニがここを嫌ったとしても、フェリーニはこの地区を気に入っていたようですよ。『ボッカチオ’70』でここを使っていますから。
 
――ナンニ・モレッティも夏のローマをヴェスパに乗ってまわる『親愛なる日記』を作っていますね。
 
フクサス監督:それはモレッティのきわめて個人的な映画ですね。私の映画もその点では共通しています。ところでモレッティの映画(『僕のビアンカ』や『ジュリオの当惑』)の脚本を書いたことのあるベテラン脚本家のサンドロ・ペトラリアにこの映画の脚本ができた時に読んでもらいました。彼は脚本が細かいところまで書かれているので、今まで疑問に思っていたことが解決したと、感謝してくれました。というのも、彼は今の若いイタリアの監督たちの映画が裏切りだとか、仕事ができないといったことばかり描くのは何故だろうと思っていたらしいのですが、そのことが理解できたというのです。そしてこの映画を作ることはとても大事だと、励ましてくれました。実際、この映画を私は同世代の人たちと作っています。ふつう新人の第1作では、ベテランと組むものですが、私の場合は違います。同じ世代の女性たちと組むことで心が通じ合い、よい仕事ができました。
 
――ここに同席している編集のナタリー・クリストィアーニさんとのコラボレーションはいかがでしたか? 意見の相違や喧嘩などありませんでしたか。
 
フクサス監督:喧嘩などせず、とてもよい協力関係でした。
 
――これからはどういう映画を目指しますか?
 
フクサス監督:この映画は本当に個人的なテーマを扱ったものですが、次は個人的なものから離れて、もっと違うものを作るつもりです。
ニーナ

©2012 TIFF

 
聞き手:田中千世子(映画評論家)

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