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2012.11.01
[イベントレポート]
「家族はいつも自分に一番愛を注いでくれる存在だということに、外に目が向いている若者たちは気が付いていないのだと思います」―10/24(水)アジアの風『帰り道』:Q&A

10/24(水)アジアの風 中東パノラマ出品作品『帰り道』のトンポーン・ジャンタラーンクーン監督と、プロデューサーのタックサコーン・プラダップポンサーさんが上映後に登壇、Q&Aが行われました。
帰り道

©2012 TIFF

 
石坂健治プログラミング・ディレクター(以下、石坂PD):まず、一言ずつご挨拶をお願いします。
 
トンポーン・ジャンタラーンクーン監督(以下、監督):今回、僕たちのこの作品が選ばれたということは、本当に嬉しい驚きでした。そして、こんなに多くの方にご覧いただけるとは思っていなかったので、とても嬉しく思います。(日本語で)アリガトウ。
 
タックサコーン・プラダップポンサー プロデューサー(以下、プロデューサー):日本に来ることができ、とてもエキサイトしています。そして皆さんに映画を観ていただけたことも嬉しいです。僕たちは東京が初めてなので、楽しい時間を過ごしたいと思っています。
 
石坂PD:この作品は去年もいくつかの映画祭で上映されていましたよね。私も含め、この映画を観た人から「あれ、いいよ」という評判が続出でしたので、ぜひ呼びたいと思った次第です。まず、2人の若い女優さんが素晴らしかったのですが、あの2人はどういう方なのでしょうか。あの2人について、監督からご紹介いただけないでしょうか。
 
監督:2人ともプロの女優さんで、名前の知られている方たちです。妹役の女優さん(アピンヤー・サクンジャルーンスックさん)は、『プロイ』(日本未公開)という映画に出演していたため、外国の映画祭などではよく知られています。実は、彼女を念頭に置いて映画の構想を練っていました。キャスティング担当にも相談して彼女に脚本を送ったところ、とても気に入って出演を快諾してくれました。
姉役の女優さん(アカムシリ・スワンナスックさん)は、テレビドラマで活躍されています。とても才能のある方なのですが、テレビと映画では求められる演技の質が異なるので、テレビスターである彼女に映画の演技を求めることは監督としても挑戦でした。彼女にとっても挑戦でしたが、本当に良くやり遂げてくれました。これは、テレビドラマの演技とは違うものに挑戦したいという気持ちが彼女にあったからだと思います。

©2012 TIFF

 
石坂PD:制作過程での苦労話などあれば、お聞かせください。
 
プロデューサー:この映画の準備が始まったのは4年前でした。監督が脚本も兼任していたのですが、トリートメント(詳細なあらすじ)をプサン国際映画祭に提出したところ、脚本を書くための支援を受けられることになったので、監督は1年間、脚本の執筆に集中することができました。その後、2年の準備期間があり、私は資金集めに奔走しました。結果的にタイで公的機関と一般企業からの援助を受けることができたのですが、これは商業的な映画ではないのでお金を集めるのは大変でした。また、ポスプロ(撮影後の編集作業)もプサン国際映画祭から援助してもらいました。タイ国内でも先月上映が始まったのですが、とても良い評判をいただいていて満足しています。
 
石坂PD:ありがとうございます。それでは、皆様からのご質問を受けたいと思います。
 
Q:遺体を自宅に持ち帰るシーンで娘たちが道案内をしていましたが、あれはタイでは一般的な風習なのでしょうか。
 
プロデューサー:これは仏教というよりタイ特有の風習なのかもしれません。
この道案内というのは、交差点や橋を渡るときに特に重要です。象徴的な意味があるとともに、これから進む方向を示すことで迷わないようにしています。その場、その瞬間で言わないといけないのです。

©2012 TIFF

 
Q:映画の中で家族の関係が壊れていく様子が描かれていますが、これは急激に進歩している現代のタイを象徴しているのでしょうか。
 
監督:はい、強く打ち出したかったメッセージで、僕らの世代の心の叫びかもしれません。ご指摘いただいた点は、確かに起きていることだと思います。若者たちは成長していく中で自分の人生に忙しくなり、家族の外に意味を見出し、家族の外でも自分を認めてもらいたい、愛してもらいたいという気持ちが強くなってきます。もちろん、家族のことを忘れたわけではないのですが、「いつもいてくれる、大丈夫」と心のどこかで過信していて、ないがしろにしている部分があるのです。家族はいつも自分に一番愛を注いでくれる存在だということに、外に目が向いている若者たちは気が付いていないのだと思います。

 
Q:おふたりはバンコク出身とのことですが、なぜ映画の舞台に南タイを選んだのですか。
 
監督:今回の舞台となった町は、これまで物語の舞台になったり撮影が行われたりしたことがなかったので、町の人たちはかなり盛り上がっていました。リサーチの段階で色々な町を旅したのですが、この町が最後に訪れた土地で、数日滞在するうちにとても気に入りました。この町はタイとマレーシアの国境に近いということで、特徴的だったのです。宗教面では仏教徒とムスリム、キリスト教徒が混在していて、仏教でもタイ仏教徒やマレーシアの華人の仏教徒がいました。また、密輸や非合法の賭け事や売春なども行われています。このような善悪の混在というのが家族にも当てはまるのではないかと思い、この町を舞台に選びました。ただ、(都心から離れているので)交通費が高くつくということには気がつきませんでした。
 
プロデューサー:この町を訪れたのは初めてで、何もないと思っていたのですが、ロケハンで色々な土地に行ってみると、どこの町も独自の特徴がありました。その中でこの町を選んだ理由は、居心地の良さです。そして、家族にもあてはまることだと思いますが、外側から見るのと内側から見るのでは捉え方が異なります。この町に滞在して温かい人たちに触れて、とても気に入りました。
 
Q:映画で特殊な撮影技法が使われていましたが、人物の心の中を映し出していたのでしょうか。どのような意図があったのか、お聞かせください。
 
監督:撮影監督と相談を重ね、人物の感情を表すような撮り方を考えました。ストーリーとシンクロするように、撮り方も工夫しました。
 
石坂PD:それでは、最後に一言ずつご挨拶をお願いいたします。
 
監督:来てくださって嬉しいです。映画を気に入ってもらえて、本当に幸せです。(日本語で)アリガトウゴザイマシタ。
 
プロデューサー:今日のQ&Aはとても充実していました。皆さんが関心を持って映画を見に来てくれたことを本当に嬉しく思います。ありがとうございました。
 
帰り道

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