Home > ニュース > 「監督のクリエイティブなビジョンを作品として実現させるために私は仕事をしなければならない」―10/27(土)コンペティション出品作品『NO』:Q&A
ニュース一覧へ 前のページへ戻る
2012.11.01
[イベントレポート]
「監督のクリエイティブなビジョンを作品として実現させるために私は仕事をしなければならない」―10/27(土)コンペティション出品作品『NO』:Q&A

10/27(土)コンペティション出品作品『NO』の上映後、プロデューサーのダニエル・マルク・ドレフュスさんが登壇し、Q&Aが行われました。
NO

©2012 TIFF

 
矢田部PD:まず会場のみなさんにご挨拶をお願いいたします。
 
ダニエル・マルク・ドレフュス(以下、ドレフェス):みなさん、こんにちは。今回、東京に来ることができて本当に光栄です。今回東京に来るのは初めてですが、東京国際映画祭に参加することができて、大変深い感謝に満ち溢れております。みなさん、お越しいただいてありがとうございます。
 
矢田部PD:ダニエルさんはアメリカの方でロサンジェルスをベースにされていますが、このチリ映画に関わるようになったいきさつを教えてください。
 
ドレフェス:この作品はチリとアメリカの共同制作で、元々、監督のパプロさんのお兄さん、ファン・デ・ディオス・ララインさんがプロデューサーをされていました。このファンさんに私は数年前、ロサンジェルスで会いまして、このプロジェクトを初めて聞いてすぐに参加したいと思いました。いつもですと「できれば参加したい」というお返事をしているのですが、今回は初めて「私はこの作品を作る必要がある、このストーリーをみなさんに伝える必要がある」と考えたんですね。これは私にとっては必然だったと考えています。というのも、私はスコットランド生まれですが、育ちはブラジルなので南アメリカという世界の現実が身近に感じられたからです。ブラジルも私が5~6歳の頃まで独裁政権でした。私の父は有名な政治学者で、ブラジルの独裁政権について研究をしていたこともあり、この物語自体が私のバックグラウンドに非常に近かったことが大きな理由となっています。私は共同制作としてアメリカ側から参加させてもらった身ですが、この物語に大変強く惹かれました。また、今でも中東といった地域では政治不安が続いており、様々な地域で人々が人権を勝ち取るため、自分たちの声を聞いてもらうために闘っています。そういう意味では非常にタイムリーな作品になったと思います。確かにこれはチリを舞台とした作品ですが、世界を代表して声を上げられるのではないかと考えていますし、そうなることを願っています。
 
矢田部PD:それではみなさまからのご質問をお受けしたいと思います。
 
Q:制作に参加されているキャストやスタッフの中には当時の信任投票の時代をご経験された方がいるのではないかと思いますが、その方たちから制作の過程で何か意見は出たりしたのでしょうか。
 
ドレフェス:まず最初に申し上げたいのですが、監督も主演のガエル・ガルシア・ベルナルも現在撮影中で、来日できないことを2人とも大変残念がっていました。ぜひみなさんによろしくお伝えくださいとのことでした。
ご質問に対する回答ですが、この作品を制作するにあたっては、かなり長い時間をかけて綿密なリサーチを行い、YES陣営とNO陣営それぞれのキャンペーンに参加した人を探しました。NO陣営だった人たちには手を挙げてくれた人が沢山いて、映画にも参加してくれたのですが、YES陣営だった人たちは、今となってはなかなか「YES陣営に参加していた」とは名乗り出づらいのが現状で、あまり手を挙げて貰えませんでした。
この作品には、当時NO陣営のキャンペーンに参加していた人たちが実際に出演しています。ガエルが演じている役は2人の人物をベースにしているんですが、この2人も映画に出演しています。ただ、ちょっとトリックがありまして、この2人は映画の中ではYES陣営のキャンペーンに参加していた人物として出演しています。1人はガエルからテレビ局でテープを受け取ってYES陣営のキャンペーンに渡してしまう人物で、もう1人は映画の冒頭でキャンペーンが上手くいくように将軍の服装なんかを検討している人物です。ガエルの役は、この2人が組み合わさって作り上げられた人物なんです。
また、劇中にはキャンペーンで使用しているビデオの映像が出てきますが、これは当時のオリジナルのビデオの映像を使用しているので、ビデオに出てくる人たちは本当に存在する人たちなんです。少女が歌っているシーンがあったと思いますが、それも当時の映像を使用していて、さらに現在の彼女も映画に出演しています。国民投票で大統領になったパトリシオ・エイルウィンは現在94歳なんですが、彼も当時の映像と映画の両方に出ています。NO陣営のキャンペーンを主催している人たちも、実在している人たちです。こうした方々が今でも実在していて、見つけ出すことができ、映画に出演してもらえたことをとても嬉しく思います。
NO

©2012 TIFF

 
矢田部PD:ガエルさんの役のモデルとなっている2人が、映画ではYES陣営の役として出演されているとのことですが、あの2人は今でもCMディレクターとして活動されているんでしょうか。
 
ドレフェス:1人は広告に今でも関わっていますが、もう1人は政治活動に関わっています。広告的観点と政治的観点を組み合わせてガエルの役が出来上がりました。
 
Q:映像について質問です。ニュース映像や当時のCM映像のフッテージと合わせるために映画の映像を当時の映像に合わせていると思うのですが、現在のカメラで撮影したものを加工したのか、それとも当時の機材を撮影に使用したのでしょうか?
また、かなり荒れた画像を商業的作品として公開することに不安はなかったのでしょうか。

 
ドレフェス:素晴らしい質問をありがとうございます。まず、私がプロデューサーとして参加したときには、監督はすでに当時の映像を多く使いたいと決めていました。ですので、作品の中でご覧いただいたYES陣営とNO陣営のキャンペーン映像というのは、どちらもオリジナルのものです。YES陣営のキャンペーンのヒドさにショックを受けたりもしましたが、そうした意図があったので、監督は様々なスタイルや手法、テクニックを試し、どれが当時の映像と一番マッチするのかを確認しました。色々なカメラを試して、最終的には80年代のヴィンテージカメラを使うことにしたのですが、実はこのカメラはオリジナルの映像を撮ったのと同じカメラだったんです。要するに、編集段階で画像処理をしたのではなく、同じ機材で撮影したということです。同じ映像にするために、同じ技術を使っています。そして機材の入手ですが、ネットで色々探してソニーの83年モデルをたくさん購入しました。ただ、2時間以上撮れたのはその中の数台でした(笑)。
もう1人のプロデューサーであるファンから、監督が80年代のカメラで撮影したいと言っていると電話で聞かされたときの自分の反応を、今でもはっきり覚えています。クリエイティブな観点から言えば、勇敢で天才的だなと思いました。プロデューサー、マーケティングの観点からも、とても賢いと思いました。多くの人がこの映画を気に入ってくれれば嬉しいですが、気に入ってくれない人がいたとしても、きっと話題にはなると思ったからです。「80年代のカメラを使っていてすごい」と言ってくれる人もいれば、「ちょっとヘンだね」と言う人もいると思いますが、こういう形で当時の機材を使って撮られる映画は最近ではないので、いずれにしても話題になるだろうと。これはプロデューサーとしては大変重要なことです。もちろん、プロデューサーとしては資金を調達して予算を確保しないといけないので、「これ以上大変な思いをさせないでくれ」とも思いましたが、何より大事なのはクリエイティブなビジョンです。資金の調達は、クリエイティブなビジョンを実現するためにあるべきですので、監督のビジョン、クリエイティブなビジョンを作品として実現させるために私は仕事をしなければならないと思いました。万が一、チケットが売れなかったとしても、この作品が真の観客にとって意味あるものであれば構わないと考えています。ですので、近代的な技術では実現できない作品を実現するというのが重要で、私にとっても監督にとってもファンにとっても、ビジネスよりもアートが優先されているんです。そして、アメリカにあるスタジオやアメリカの配給権を買ってくれたソニー・ピクチャーズ・クラシック、当初から連携してくれたファニー・バルーンの協力を得られたという点で、私たちは大変恵まれていました。80年代のカメラで撮影したかどうかではなく、この作品を気に入ってくれた人たちがいて、大変嬉しく思います。
 
NO

KEIRIN.JP本映画祭は、競輪の補助を受けて開催します。TIFF History
第24回 東京国際映画祭(2011年度)