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2012.11.01
[イベントレポート]
「次に賞をもらったら、賞金は僕がもらいます」―10/27(土)アジアの風『眠れぬ夜』 Q&A

10/27(土)アジアの風-中東パノラマ部門『眠れぬ夜』の上映後、チャン・ゴンジェ監督にご登壇いただき、Q&Aが行われました。
眠れぬ夜

©2012 TIFF
※画像は23日のQ&Aに登壇された時のものです

 

司会:まずはチャン・ゴンジェ監督からご挨拶をお願いいたします。

 

チャン・ゴンジェ監督(以下、監督):(日本語で)こんにちは。私はチャン・ゴンジェです。韓国の映画監督です。みなさん、この映画どうでしたか?(会場から大きな拍手)ありがとうございます。

 

司会:日本語お上手ですね。

 

監督:いえ、これしか知りません。(会場笑)

 

司会:65分という短めの映画ですが、このくらいの長さの映画は韓国では多いのですか?

 

監督:長編映画のランニングタイムは60分と定められているので、これは短い長編映画と言えます。当初、この映画は中編映画にしようと企画していたので、撮影回数も7回から8回くらいと考えていました。しかし、シナリオが完成していない状態で映画を撮り始めましたので、撮影回数がどんどん増えていったんです。また、映画のエンディングも当初考えていたものと変わったり、取り直しも発生したりしました。そうしていくうちに、ランニングタイムを定めて撮ること自体が無意味となり、結果的に撮影したものをすべて編集して「これがいい」と思ったものが65分の作品になったということです。
ご覧いただいたとおり、この映画の画面サイズはワイドサイズではなく、4:3というテレビのブラウン管サイズと同じです。また、映画の内容も何か大きな出来事が起こるというのではなく、ごくごく素朴な日常を描いたもので、テレビドラマの長さと同じ60分という長さの映画になりました。当初意図したランニングタイムではありませんが、結果的には内容にあった長さになったと思います。

 

司会:それでは、観客のみなさまからのご質問をお受けしたいと思います。

 

Q:とてもカメラワークが静かで全く動かないシーンもありました。この静かな物語とマッチしていたと思うのですが、撮り方へのこだわりはあったのでしょうか。

 

監督:専門的なご質問をありがとうございます。
この映画において、カメラのスタイルや位置を決めることは、とても難しいことでした。最適な位置で最適な動きで撮りたいと思っていましたので、カメラマンと相談しながら決めていきました。時には意見がぶつかることもありましたが、常にベストを探ってカメラ位置を決めました。もちろんコンセプトもあります。この映画のメインとなる登場人物の2人はほとんど動くことなく会話を交わしています。ですから、登場する2人の人物をまるで写真アルバムのような感じで撮りたいという意図がありました。決して作られたキレイな画面ではなく、あくまでも自然に見えるようなカメラの位置やアングル、フレーム、サイズを考えました。

 

司会:映画に出てくる家はセットではないんですよね?

 

監督:あれは私が実際に暮らしている家です。この映画の全スタッフは私を含めて4人で、俳優は2人なのですが、その計6人がこの家に寝泊まりしながら撮影しました。カメラやレコーダー、マイクは知り合いのものを借りましたので、実際にかかった製作費は、我が家で食事を作ったりした光熱費だけです。(会場笑)

 

司会:全州国際映画祭でグランプリと観客賞を受賞されて、賞金1万ウォンを獲得していましたから黒字ですね。

 

監督:賞金をいただけたので、俳優とスタッフたちのギャラにあてることができて本当に幸運でした。次に賞をもらったら、賞金は僕がもらいます。(会場笑)

 

Q:この作品は一言では説明しがたい内容で、撮りながらエンディングが変わっていったということですが、最初の企画段階でプロデューサーやスポンサーをどうやって説得したのでしょうか。
 

監督:この映画のプロデューサーは私の妻です。

 

司会:それは説得しやすいですね。

 

監督:普段から私たちは、毎晩食卓を囲みながらシナリオの進捗や作品について話をするんです。そんな中で、僕は「僕たち夫婦の暮らしをこじんまりした作品でいいので映画に撮りたい」と妻に伝えました。いつもなら彼女は「イマイチね」とか「また今度話しましょう」とか言うんですが、この企画を持ちかけた時は「いいんじゃない」と、僕の後押しをしてくれたんです。なので、この話を持ち出した次の日から、当時取り組んでいた作品を中断して本作に取りかかりました。

その時点で私が考えていた映画のシナリオは、「30代半ばから後半にかけての夫婦のストーリー」という点だけでした。

 

司会:劇中で交わされる会話は、実際にご夫婦で交わされたことのあるエピソードなのでしょうか。

 

監督:そうですね、私たち夫婦が交わした会話もあれば、俳優たちが考えた会話もあります。映画の中のセリフを考えたのが誰なのかをはっきりと区別することは難しいのですが、基本的には私が設計して、みんなで一晩考えて次の日から撮り始めるということもありました。
映画の後半でお酒を飲んでいるシーンがありますが、実はその日は女優さんが「今日は気が乗らない」と言い出したので、その日は休みにしてみんなで飲み始めたんです。でも、お酒を飲みながらも話題は自然とこの映画のことになり、実際にお酒に酔って話をしている俳優さんをカメラに収めた映像も実際に映画に使いました。ベッドの上で旦那さんが漫画を読んでいるシーンがあるのですが、女優さんは酔っていたのでそのシーンについては何も覚えていませんでした。

 

Q:楽しく見させていただきました。話し全体としては、幸せなカップルな感じで終わっているようなんですが、随所に不穏な空気を感じさせる場面なんかも盛り込まれたりしてまして、監督としては幸せな物語として描きたかったのか、そうではない話として描きたかったのか、あるいは見ている人にゆだねる作品として作ったのか、そのあたりを教えていただきたいと思います。

 

監督:この映画はハッピーエンドだとか、サッドエンディングだとかにかかわらず、私自身がこの映画を作ることによって自分自身に問いかけている、そんな感じです。自分はこれからどうやって生きていくべきなのか、あるいはこの映画を見ていただいた皆さんに質問を投げかけ、僕たち夫婦はどうやって生きていったらいいですかというような問いかけの映画です。ですから結論を得たいという映画ではありません。

 

司会:制作している上で何か変化はありましたか?

 

監督:私はこの映画を作った結果、妻とより親しくなったかなと思います。

 

司会:赤ちゃんもできたそうですよ。言わないのかなぁと思ったので、私から。
 

監督:(観客席に向かって)先ほど立っていただいた方は、昨日私がシネマートという劇場を探してさまよっていた時に助けていただいて、ここを教えてくださった方です。その時に私の映画が上映されるのでぜひ見にいらしてくださいと申し上げたら、ほんとうに来てくださっていて、ありがとうございます。

 

その招待された方より質問:正確に言うとシネマートではなくて、関係者の飲み会に行くために、地図のコピーを持って店を探されていたようです。(映画の感想は)気持ちいい映画でした。ディテールが気持ちいい。実は映画祭初めてです。聞きたかったのは目的地がわからないまま旅にでるみたいなイメージなんですよ、監督は旅がお好きなのかなと。

 

監督:まず映画を作って海外の映画祭に行くという機会が得られるまでは、一度も海外に出たことがない、そういう人間でした。ですから私にとって旅行といえるものは妻と一緒に国内旅行に行くことぐらいです。温泉が好きです。韓国にも温泉がありますので温泉地に行ったことがよかったと思います。機会があれば北海道の露天の温泉に行ってみたいなと思います。もちろん映画祭で海外に行ったことはあるんですが、それは旅行というよりも、映画祭なので。(監督自身が日本語で)ありがとうございます。

 

司会:続いて質問をどうぞ。

 

Q:一番最後のほうに、自転車を見つけるシーンがありました。そこに特に意味があったんでしょうか。

 

監督:自転車を失くしたというのは私の実体験です。実際は見つかりませんでした。実際に私が自転車を失くした時に言った言葉、それがこの映画の中で妻が夫に言った言葉に反映されています。その時に映画の中で夫が言ったように、私の妻も私に「ちょうど私もそんな風に思っていたよ」と言いました。ですからこれは、答からは少し外れるかもしれませんが、映画の中で自転車を見つけたというのは、見るがままのものでありそこに大きな意味を持たせたということはありません。

 

Q:会話がすごく暖かくて、息もぴったりでした。冒頭のシーンで少年たちがビデオカメラか何かでいろんなポーズを撮影していたと思うんですが、彼らは何者だったんですか?
 

監督:実はあの子たちっていうのはこの映画のクランクインの日に実際にあそこに居た子たちで、彼らのおかげでなかなか撮影が進まなくて。あまりに進まないものですから、カメラマンに「一応あの子たち撮っておいてください」といいました。編集の段階でこのシーン使えるのかなと思ってはいたんですが、結局この映画の最初のシーンに出てくることになりました。あの子たちは日本の観客の皆さんに見られている、とは夢にも思っていないと思います。

 

Q:壁に貼ってある写真などから、いろいろ二人の過去を妄想しながら楽しく見させていただいたんですが、男性が熱心に読んでいるマンガ、「蒼天航路」という日本のマンガなんですが原作は李 學仁という韓国の方なんですね。その辺監督にはなにか思い入れがあってあれを選んだのかなと思ったのですが。

 
監督:実際に夫役のキム・スヒョンさんがマンガ好きで、彼が「夫」というキャラクターを構築する必要がある。その準備段階で、家の中に「夫」がいるべき空間が必要だと。(俳優が)自分は普段からマンガが好きですというので、じゃあ持ってきてということで、彼の(私物の)マンガを持ってきて夫の空間というのを構築し、また普段からよく読んでいるマンガを手にしている。妻が話をしているというシーンで、じゃあ夫はどうしますか。じっとしているのか、あるいは話を聞いているようにしますかとキムさんと相談した時に、「マンガを読んでいるのがいいのではないですか?僕、普段もそうですから」ということであのシーンになりました。

 

司会:そろそろお時間なんですが、皆様にメッセージをお願いできますか?

 

監督:ありがとうございます。
今回の上映が2回目であり、最後の上映となりました。今年こうやって東京の観客にお会いできたこととてもドキドキしました。とてもうれしく思いました。もっともっとお話をしたいのですが、時間の関係上これでサヨナラとなります。次回作を作っていつかまた帰ってきたいと思いますので、どうか覚えていてください。その時にまたお会いしましょう。
 
眠れぬ夜

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