『もうひとりの息子』が「東京 サクラ グランプリ」と最優秀監督賞の2冠に輝いた第25回東京国際映画祭(TIFF)。クロージングセレモニーでの受賞者の皆さんのコメントをご紹介します。
■コンペティション
審査員特別賞:『未熟な犯罪者』
最優秀男優賞:ソ・ヨンジュ『未熟な犯罪者』
審査員特別賞と最優秀男優賞のダブル受賞となったのが韓国の『未熟な犯罪者』。保護観察中の少年と突然現れた母親との関係をみずみずしく描いた同作のカン・イグァン監督は、感無量の表情で「この映画を作るのは簡単ではありませんでした。ここまで来られたのも奇跡だと思っています」と振り返り、「映画を作るということは、同じ考えの人、すなわち“友人”と出会うこと。映画を通じて観客、審査員が好きになってくださったことは、たくさんの友人に出会えたということです。そんな機会を与えてくれた映画祭と、作品の大きな力になってくれた主演の2人に感謝したいです」と述べ、主演女優のイ・ジョンヒョンさんも涙ぐむ姿を見せました。
主人公を演じたソ・ヨンジュさんは、「皆さんへの感謝しか出てきません」と挨拶。「この作品に参加すること自体が大きな経験でした。本当に大きな賞をいただけて感謝しています」と述べました。
最優秀女優賞:ネスリハン・アダギュル『天と地の間のどこか』
最優秀女優賞に輝いたのは、トルコ=ドイツ合作『天と地の間のどこか』のネスリハン・アダギュルさん。「素晴らしいです。とても興奮していて緊張しています。ありがとうございます。母もきっと喜んでくれると思います」と涙を浮かべながら喜びを伝えました。
最優秀芸術貢献賞:撮影監督パンカジ・クマール『テセウスの船』
最優秀芸術貢献賞は、インドの『テセウスの船』の撮影監督パンカジ・クマールさんに。来日が叶わなかったことで、主演女優のアイーダ・エル・カーシフさんが代わりに登壇し、「作品に関わった全員を代表してお礼を申し上げたい」と挨拶しました。TIFFでの東京滞在を「とても素晴らしい経験でした」と語り、「監督も数日前に帰国してしまい、クマールも残念ながら来日していませんが、彼は本当に素晴らしい撮影監督で、早くインドからエジプトに来て仕事をしてくれないかと思っていましたので、それが叶ったうえに、こんなにも素晴らしい賞をいただいて感謝しています」と続けました。
代理受賞したアイーダ・エル・カーシフさん
観客賞:『フラッシュバックメモリーズ 3D』
観客からの投票によって決定する観客賞には、松江哲明監督の『フラッシュバックメモリーズ 3D』が輝きました。監督によると、作品が完成したのは「映画祭が始まる3日前の深夜」だったそうで、「色々な方にご迷惑をお掛けしました」と謝罪するとともに、「お客さんがすごく温かいリアクションや感想を伝えてくださって、上映したときの雰囲気という、お客さんがこうした場で(作品を)作っていっていただいたことが製作者として嬉しい」と、観客と一体となって作品を作り上げた喜びを語りました。そして、被写体となったディジュリドゥ奏者GOMAさんの奥様と娘さんにも「大切な日記を預けてくださった澄子さん、娘のまーちゃんに改めて感謝したいと思います」とメッセージを送りました。
■アジアの風
最優秀アジア映画賞 『沈黙の夜』
「アジアの風」部門の最優秀作品に贈られる最優秀アジア映画賞には、トルコの『沈黙の夜』に。舞台にはレイス・チェリッキ監督とプロダクション・マネージャーのメディック・チェリッキさんが登壇し、監督が「芸術の役割は、世界中の声と色彩を一堂に会させ、人々の悲しみを語ることです。我々を迎えてくださったお礼を申し上げたいです」と感謝を伝えました。
アジアの風審査委員リム・カーワイ監督からトロフィーを受け取るレイス・チェリッキ監督
続けて、同部門の中山治美審査員が「監督が“映画の力”を信じて映画を作っているのが伝わる作品揃いで、毎日心が躍っていた」と総評を伝え、「審査員の年代がバラバラで好みが分かれた」ということから、『兵士、その後』(スリランカ)、『老人ホームを飛び出して』(中国)、『ブワカウ』(フィリピン)の3本をスペシャル・メンションとして選出したことを述べました。
■日本映画・ある視点
作品賞:『GFP BUNNY―タリウム少女のプログラム―』(一般公開タイトル『タリウム少女の毒殺日記/GFP BUNNY』)
日本のインディペンデント映画を積極的に発掘する「日本映画・ある視点」の作品賞は、土屋豊監督の『GFP BUNNY―タリウム少女のプログラム―』がその栄誉に。副賞100万円についてのジョークを飛ばしながら、土屋監督はインディー映画界における資金の重要性を訴え、「この部門でかかるような映画は、自分でお金を費やしても世の中に発信したいことがある人が撮る作品だと思います。今後も続いていくためにも、僕はこれからの宣伝・配給費をなんとかしようとクラウド・ファンディングで資金を募集しているんですが、ここで成功していくことが、これから続いてくる次の若い人たちの励みになると思います」と持論を展開しました。
これを受けて、審査員の村山匡一郎さん、深川栄洋監督、川村元気プロデューサーも今回の同部門を総括。「家族の崩壊や震災の被災地、新興宗教と、日本の今の現実を反映しているテーマは評価していいと思いますが、映画としてもう少しふくらまないのか等、観ていて物足りない思いが審査員一同にあったことは白状しておきたいです」(村山さん)、「映画監督が自力で育つ場として、この部門はとても重要になると思います。ここで発表してもらって世の中で精密で大きく爆発する爆弾を作っていただきたいと思っています」(深川監督)、「将来的に一緒に作れる才能を探していました。インディペンデントでできることは、いわばゲリラ戦です。メジャーができない驚くことをやってみることが、興行でも映画祭でも重要だと思います。今後も目立つ作品が現れることを楽しみにしたいです」(川村プロデューサー)と感想を述べました。
■TOYOTA Earth Grand Prix
TOYOTA Earth Grand Prix:『聖者からの食事』
TOYOTA Earth Grand Prix 審査員特別賞:『ゴミ地球の代償』
「自然との共生」をテーマに5年前から創立されたnatural TIFF部門から選出されるこの賞には、TOYOTA Earth Grand Prixとしてベルギーの『聖者からの食事』、審査員特別賞にはイギリスの『ゴミ地球の代償』が選ばれました。
インドからの食事を無償で振る舞う行事を追った『聖者からの食事』からはフィリップ・ウィチュス監督が登壇。「ありがとうございます。今日は私ひとりですが、共同監督したヴァレリー・ベルトーも喜ぶと思います。この映画を通して、“食する”ということを今一度考えていただければと思います」と挨拶しました。
トヨタ自動車株式会社 小西俊一常務役員からトロフィーを受け取るフィリップ・ウィチュス監督
ジェレミー・アイアンズが出演と製作に名を連ねた『ゴミ地球の代償』は、人間が避けて通れないゴミ問題を真正面に見据えた作品。登壇したアソシエイト・プロデューサーのタビサ・トラウトンさんは、「監督に代わって、キャスト、クルーのほか、作品に関わった人々を代表してお礼を申し上げたいです。このような賞をもらうのは我々にとってとても重要なことです。本当にありがとうございました」と述べました。