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2012.10.29
[イベントレポート]
「世界的に疲弊している今だからこそ、明るさや希望を描いた作品にグランプリを贈りたかった」――10/28(日)審査委員会見

 プレス向けの審査員会見では、5人の審査員によるコメント、審査委員長のロジャー・コーマンの総括、そして質疑応答が行われました。
審査委員記者会見

©2012 TIFF

 
<審査員コメント>
 
ロジャー・コーマン氏:これまでたくさんの国際映画祭で審査員をしてきましたが、東京国際映画祭ほどフレンドリーな環境はありませんでした。サクラグランプリを始め、主要な受賞作品はほぼ満場一致で、穏やかな雰囲気の審査でした。
審査委員記者会見

©2012 TIFF

 
リュック・ローグ氏:東京国際映画祭で素晴らしい作品をたくさん観ることができ、審査員として呼ばれたことを光栄に思います。授賞式で受賞者が登壇したときは、特別な素晴らしい瞬間でした。
審査委員記者会見

©2012 TIFF

 
滝田洋二郎氏:6日間で15本の作品を観ました。正直、1日3本はきついかなと思っていましたが、全員で完走できた。自分に映画的体力が残っていたことが嬉しいです(笑)。グランプリ始め、国際映画祭でなければ観ることができない、いろいろな作品に触れることができて楽しかったです。審査の雰囲気も最高でした。1作品見終わるごとに、ビッグファーザーのコーマンさんを中心に、議論を繰り返したことで、僕らはコーマンファミリーになった気がします。僕らはずっと映画の中を旅していますが、今回は最高の旅路になったことを感謝しています。
審査委員記者会見

©2012 TIFF

 
部谷京子氏:母親と娘の関係や、母親になる少女の話など、母性に纏わる話が多かったことが、女性として印象に残っています。舞台となる国や年代が違っても、根底にあるものは同じかもしれないと痛感しました。だからこそ、いろいろなバックグラウンドを持つ審査員が、同じ場所に着地したのだと思います。映画を通して至福の時間を過ごすことができました。
審査委員記者会見

©2012 TIFF

 
エマニエーレ・クリアレーゼ氏:ここにいる5人の審査員は、監督が2人、プロデューサーが2人、プロダクションデザイナーが1人。5人揃えば映画が撮れるんじゃないか、というくらい素晴らしい体験ができました。国際映画祭の審査員の経験はたくさんありますが、今回は特別です。子供のような気分になれたことも、こんなに審査員同士が共感を共有することも、稀です。一作品ごとに会話を交わし、部屋に戻って改めて意見を反芻して臨んだ最後の審査の日、どうなるかと思ったら満場一致の結果となりました。
審査委員記者会見

©2012 TIFF

 
<審査委員長ロジャー・コーマン氏総括>
 
1000本以上の作品から選ばれた素晴らしい15本は、文化、国、政治、宗教、信条の違いを見出しています。だからこそ、審査してみてここまで満場一致だったことに驚いています。ある賞に関して1位だけでなく第2候補、第3候補も考えていたのですが、そこに至るまで満場一致に近かったのです。ここまでスムーズな映画祭は珍しいと思います。
 
<質疑応答>
 
Q:サクラグランプリと最優秀監督賞の『もうひとりの息子』、審査員特別賞と最優秀男優賞の『未熟な犯罪者』は、1つの作品に2つの賞が与えられていますが、その理由は?
 
コーマン氏:私たちは作品の品質で審査しました。作品賞は満場一致でした。その理由は監督が素晴らしい仕事をしているわけですから、すなわち監督賞に繋がるのでは? という議論でも満場一致となりました。
 
Q:『もうひとりの息子』をグランプリに選んだ理由は?
 
コーマン氏:1948年にイスラエルという国ができました。私は何度もイスラエルとパレスチナを訪問していますが、こんなに小さな土地で戦が続いていることに驚いています。そんな私から観ても、この作品は、イスラエルとパレスチナを平等なバランスで捉えているように見えました。政治的背景だけでなく、「人間は皆平等である」という微妙で繊細なテーマをしっかりと私たちに伝えていることが受賞の理由です。
 
Q:グランプリの次点はありましたか?
 
滝田氏:『未熟な犯罪者』『天と地の間のどこか』などは競り合った作品といえると思います。個人的には『風水』が良かったと思います。
 
Q:「グランプリは満場一致」とみなさん仰いますが、ダントツだったと受け止めていいですか?
 
クリアレーゼ氏:作品賞、審査員特別賞、監督賞に関しては「イエス」です。
 
Q:今年の作品の全体的な傾向は?
 
クリアレーゼ氏:映画は社会を映す鏡です。グローバルな視点において「母や女性の役割について」「目標や価値観を手に入れたいけれどわからずに模索する若い世代がどう生きていくのか」といったことが大きなテーマになっていると思います。
 
滝田氏:誰もが問題を抱えていると思います。題材として多かったのが、生活的な困窮や、愛情の問題。世界中が社会的に疲弊しているのかな、と感じました。3分の1がそういう題材だった。すると、現実の厳しさや人間の弱さを描写するだけではなく、未来への希望を描く作品に出逢いたいと思っていたことも事実です。だからこそ、グランプリの『もうひとりの息子』、困難な問題や絶対に解決しない問題を描いているかもしれないですが、そこから生まれた物語が我々の共感を呼んだのだと思うし、自分自身も観た人が前向きになる映画を撮りたいし、映画の力を信じたいと思います。
 
コーマン氏:現実的で、テーマが暗く、人間の葛藤を見せる作品が多かった。『もうひとりの息子』は、人間と政治の複雑な葛藤のなかに、明るさや希望というものを感じられて、作品賞を贈りたいという気持ちになりました。

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