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2012.11.01
[インタビュー]
【公式インタビュー】コンペティション『黒い四角』

奥原浩志(監督/脚本/編集)(『黒い四角』)
黒い四角

©2012 TIFF

 
奥原浩志監督が5年ぶりに撮った『黒い四角』は、インディーズによる海外ロケという話題性もさることながら、過去の作品にない大らかなユーモアと、過去の作品以上に切ない叙情に満ちている点で、新境地を示す作品だ。主人公がハダカで登場し、ユニークな人物と関わるうちに、前世の愛が繙かれるという展開には、古き良き映画が持つナンセンスと監督の繊細な感性がブレンドして、大陸的風土の中で結実したような印象を受ける。ぜひ、多くの人に味わってほしい作品だ。
 
――昨日、映画祭での2回目の上映が終了しました。晴れてワールド・プレミアを終えたご感想をいただけますか?
 
奥原浩志監督(以下、奥原監督):最終的に映画が完成したのはオープニングの3日前のことです。初めて事前試写をやりましたが、映写状態が悪くて物凄くショックを受けました。慌ててIMAGICAに駆け込んだけど問題はなく、結局、映写機が原因ということでした。その日はスクリーン・チェックを入念にやりながら観ただけで、作品を通して観るのは、映画祭上映が2回目でした。そんな感じでしたから、初回は映画祭を楽しむよりも、最後まで上映がうまく行くか気になって、観ることに集中していました。2回目の上映で、ようやく落ち着いて観ることができました。
 
――監督は自主製作した作品で釜山やロッテルダムなどの海外映画祭で受賞されています。また『青い車』『16 jyu-roku』の2本では、商業畑でもご活躍されています。今回、さらに中国での作品づくりという新たな一面が加わりましたが、なぜこんな大胆なチャレンジをされようと思ったのでしょう?
 
奥原監督:単純に言うと、日本でなかなか映画が撮れなかったからです。脚本を書いて企画書を出しても、話がまとまらない。悶々とするうちに、気晴らしをしようと思って、文化庁の海外研修制度に応募したら通った。それがきっかけです。
 
――言葉もできない見知らぬ土地にやってきて、周囲がSFのような風景に見えた。そのことにインスパイアされたとお話しされていましたね。でも、ちょっと歩けば空き地があったり、道端を野良犬が歩いていたりする光景は、日本人にとっては、どこか懐かしい風景にも思えてきます。
 
奥原監督:たしかに、そうかもしれません。でも研修期間を含めて3年半も住んでいたので、作るときにそうした実感はありませんでした。
 
――これまでの作品の主人公はすべて芸術関係の人たちですね。ミュージシャン(『タイムレスメロディ』)、写真家(『波』)、DJ(『青い車』)、女優(『16 jyu-roku』)。しかも誰もがアマチュアだったり、駆け出しの存在でした。今回もそうで、チャオピンとハナはバイトしながら共同生活を営む美術家です。こうした設定には、何か特別な理由がありますか?
 
奥原監督:『青い車』は原作がそういう設定ですし、『16 jyu-roku』は最初にそういう枠組みがありました。考えたことはないんですけど、音楽を演奏したり、写真を撮ったりして、個人で活動している人への憧れがあるかもしれません。たまたま、身近にそういう人が多かったというのもあります。
黒い四角

©2012 TIFF

 
――登場人物の底を流れる感情に嘘はないというところに、監督は大変こだわっているように思います。ずっと自分で脚本を書いていますが、最も大事にされていることは何ですか?
 
奥原監督:脚本じたい、あまり信用しているわけではありません。そこからスタートし、どれだけ離れられるかが課題だと思っています。現場で手直しすることはほとんどありませんが、たまに飛躍した発想や新しいアイデアが思い浮かぶことがあって、そうした時は積極的に取り入れています。これまで登場人物に委ねて脚本を書いていましたが、今回はテーマを決めて書きました。「亡霊と愛は同じもの」という内容で、新鮮な気持ちで書くことができました。
 
――日中混合キャストでしたが、役者のアンサンブルがとても良かったですね。主要キャストは最初に役者さんを選んで、あて書きされたのでしょうか?
 
奥原監督:あて書きしたのは黒四角役の中泉秀雄だけです。あとは、集まった人たちでやっていこうという感じで、これまでの作品とスタンスは変わりません。中国の人たちはみんな凄く演技がうまい。チャオピンに服を貸すラオチェン役は、美術スタッフの親玉が演じましたが達者でしたね。スタンダップ・コメディアンの黄さん役の人は劇作家で、アンダーグラウンド・シーンでは有名な人です。また儲け話ばかりしている劉海役を、僕と仲のいい映画監督の人が演じています。中国にはほんとにあんな人が多いんです(笑)。ちなみに、彼が話す実業家のエピソードは創作です。
 
――軍人役で中泉秀雄さんというと、『南京!南京!』を思い出す人も多いと思います。監督はそうしたことを意識して、キャスティングされたのでしょうか?
 
奥原監督:いや、もともと友だちだからキャスティングしただけで、他意はありません(笑)。中国語が達者なのでいいと思ったまでです。
黒い四角

©2012 TIFF

 
――黒四角が高台で見張りをしている場面がありますが、どんな意味があるのでしょう。何を見張っているのですか?
 
奥原監督:あの場面はリーホワが書いている小説を映像化しています。現実や過去のパートとは独立した部分ですが、特に映像的に工夫したわけでないので、観客には少し分かりにくいかもしれません。現実でも過去でもない小説の空想的な部分だから、多少不条理な感じがあってもいい。そこで何かを見張るという設定にしました。次の場面で、リーホワがパソコンのキーを叩いているので、彼女の想像だと理解できるはずです。
 
――これまでの作品では平坦な土地を移動していく場面が印象的でした。今回、移動はバスの場面だけでしたが、奥原監督ならではの切なさを感じさせます。
 
奥原監督:もともと、車や電車の中での撮影は面白味がないから、ほんとは好きじゃないんです(笑)。これまでだって脚本に書いてしまったから、撮っていた。今回はバスの場面だけでよかったです。
 
――町中で兵士を見つけ、黒四角が追いかけていくうちに、時代は遡って戦前のパートに入ります。兵士の数がだんだん増えてきて、砂丘を登っていく場面は鮮烈です。一連のシークエンスを作るにあたって、どんな点にご苦労されましたか?
 
奥原監督:砂丘での撮影は砂嵐が吹雪いて苦労しました。風だけだったら良かったのですが、当日は砂が舞い、いつ撮影がストップしてもおかしくない状況でした。1カット1カット撮るのが大変で、撮るだけで精一杯でした。
 
――前半が軽いタッチでユーモアを持って進んでいくのに対して、後半は重厚な印象を持ちました。カット割りも少なく、カメラワークもわざと単調にされているようです。限定的な室内場面を撮るとき、どんな演出を心がけましたか?
 
奥原監督:後半部分はほとんど室内劇です。ロケした家はそれほど広くないので、カメラ・ポジションも限られてくる。そうした中で撮るとなると、他にポジションはどこにあるのか探すような作業になってきます。そうしたかたちになるのは避け、ベスト・ポジションで勝負したいと思いました。
 
――上映後のQ&Aで、監督は「自分にはどこか、人間関係を諦めているところがある」と仰っていました。他人を巻き込んで作品を作らなければならない映画監督としては、異例の発言とも受け取れますが?
 
奥原監督:あの時は、観客から「いつも優しい映画を撮っている」と言われて、動揺しました(笑)。もちろん普通に人間関係を築いて、多くの人を巻き込んで映画を撮っているわけですが、それとは無関係に、人間の根本的な部分で、どこかにそうしたところがある。だから、本気で人間を憎むことができないのです。
 
――今後、日本でも中国でも一般公開実現に向けて、準備されていくことと思います。日本はもちろんのこと、中国での公開が心待ちです。
 
奥原監督:いろんな問題が起きているので、今は作業をストップしています。特に急ぐことではないので、問題がクリアされてからでも公開できればいいと思っています。中国版は現地のプロデューサーが編集する予定です。自分としては今回の上映バージョンが完成型と考えていますが、たとえ編集版であっても、体験として自分の作品が中国でどう受け止められるのか知りたい。いずれ公開できればいいと願っています。
 
聞き手:赤塚成人(編集者)

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