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2012.11.01
[インタビュー]
公式インタビュー アジアの風 『パンのココロ』

カオ・ピンチュアン監督(『パンのココロ』)
パンのココロ

©2012 TIFF

 
カオ・ピンチュアン(高炳權)監督の作品が東京国際映画祭で上映されるのは、じつは今回が2回目となる。
前回は2008年、同じく“アジアの風”部門で上映された『ビューティフル・クレイジー』で、カオ監督はヒロインのひとりシャオブー(演じたのはアミヤ・リー)のボーイフレンドのボクサー役を熱演していたのだ。当時、台北藝術大學で映画の勉強をしていたカオ監督は、『ビューティフル・クレイジー』の監督、リー・チーユエン(李啓源)に師事。自身の学生を(現場実習の意味も込めて)作品に起用することの多いリー監督だけに、カオ監督は半ば必然的に彼の作品に出演したという次第である。
今回は自作を携えての参加となったカオ監督に、お話を伺った。
 
――監督、東京国際映画祭にお帰りなさい。
 
カオ・ピンチュアン監督(以下、カオ監督):前回は残念ながら来日できなかったですけどね(笑)。
 
――今回上映された『パンのココロ』は、監督が2006年に台湾のテレビ局=公共電視台で製作した80分の単発ドラマの映画リメイクですよね。僕はこのテレビ版を2007年の台北電影節(映画祭)で観ているんですが、映画化に際して、いろいろと細かい変更が加えられていることがわかります。例えば、テレビ版のブレッドは英国から来ている設定でしたが、映画版ではフランスから。シャオピンの父親がブレッドにねだる「15万台湾ドルの」楽器が、テレビ版ではギブソンのギターだったのが、映画版ではサックスになっているというように。
 
カオ監督:基本的な作品の構造は同じなんですが、テレビ版では語りきれなかった部分を掘り下げ、肉付けしていったという感じですね。例を挙げると、テレビ版のブレッドはたんなる「海外生まれの華人」だったのですが、映画版では「著名なパン職人」という要素を加えて、台湾南部の市井の人々との間に意識的に“距離”をおいてみました。そのブレッドが「かつて母が味わったパンを探して」台湾にやって来るという設定も、シャオピンが「海外に行くか、このまま台湾で平凡な人生を送るか」悩んでいるという設定も映画版のオリジナルです。
また、テレビ版では「男と男の闘い」に重点が置かれていまして、この作品の中国語タイトル『愛的麺包魂』の“魂”は、“闘魂”を意味しているんです。でも、映画化にあたっては、この“魂”の範囲を広げて、家庭への想いであるとか自分の価値観であるとか愛情であるとか、そういったものを昇華させて描いていったつもりです。
パンのココロ

©2012 TIFF

 
――映画版にはフランスやパリへのこだわりもみられますね。
 
カオ監督:劇中、シャオピンが『麗しのサブリナ』が好きという台詞がありますよね。まさにあのイメージなのですが、世界中の女の子が憧れるロマンティックな国というのは、やはりフランスではないかと。英国ではなくて。
 
――テレビ版からの変更点といえば、主人公ガオピンのキャラクターも変更されています。テレビ版でガオピンを演じた高志宏はアツくてまっすぐな男でしたが、チェン・ハンディエン(陳漢典)が演じた映画版では、彼のマス・イメージを反映させたかのような、コミカルでちょっとダメな感じの男になっています。これにはプロデューサーからの要請があったと、上映終了後のQ&Aで話されていました。
 
カオ監督:最初は映画でもオリジナルのガオピンのイメージで行こうと思っていたんですが、いろいろな人の意見を聞いて脚本を修正しました。ただ、正直にいえば葛藤はあったんですよ。やはり「男と男のガチガチの闘い」にこだわりたいという思いは強かったんで。
 
――でも、チェン・ハンディエンのガオピンが最後の最後で男らしく立ち上がるという映画版の演出も、別の意味で効果的だったんじゃないですか。そういえば、日本では気づかれなかった方が多いと思うのですが、高志宏は警察官の役で映画版にも出ているんですよね。
 
カオ監督:物語の終盤では、新旧ふたりのガオピンを同じフレームにおさめてみました。
 
――さて、ここでちょっと聞きづらい質問をさせてください。テレビ版の『パンのココロ』は大変評価の高い作品で、台北電影節でも多くの賞を受賞していましたが、「それと比べると、映画版は若干評価が落ちる」という声がありますが。
 
カオ監督:いっぱいありますよ(苦笑)。本音をいうと、僕もテレビ版の方が好きなんです。やっぱり自分で書いたオリジナルの脚本ですし。ただ、プロデューサーいわく、「もっと女性向きにしないと興行的には厳しい」と。で、脚本に手を加えていったら、どんどん甘い方向に行っちゃって…。それでも、僕はアイドル映画を撮るつもりはなかったんで、ひねりを加えて、ヨーロッパテイストの漂う小品を目指してみたつもりです。
パンのココロ

©2012 TIFF

 
――その狙いは成功していたと思います。じつは僕も、はじめて映画版を見た時は「テレビ版の方がよかったな」と思ったんですが、今回あらためて映画版を見直して、これはまた別個の、愛すべき作品だと思うようになりました。では最後に、次回作の予定を聞かせてください。Q&Aの時のお話だと、台湾で実際にあった飛行機の山岳事故をテーマにされるということですから、今回とはガラっと変わった感じになりそうですね。
 
カオ監督:もっと複雑な内容になるんじゃないかと思っています。これから脚本を書くので、どうなるかわからないですけど(笑)。少なくとも、テーマがテーマなので、『パンのココロ』のように楽しい感じにはならないでしょう。
 
――チャレンジですね。
 
カオ監督:そうですけど、僕は常にいろんなジャンルに挑戦したいと思っていますので。テレビ版の『パンのココロ』と同じ年の台北電影節で上映された、僕の短編映画はご覧になっていますか?
 
――“靜夜星空”ですね。いまではスター女優のチャン・チュンニンとアリス・ツェンが出演した、緊張感溢れる、サスペンスタッチの良質な短編でした。
 
カオ監督:あの作品も『パンのココロ』とは全く違うタイプの映画ですよね。そんな感じで、これまでも僕は1作ごとに新しいスタイルに挑戦してきていたので、『パンのココロ』をリメイクするというのは、僕にとっては結構ムリをした企画でもあったんです(苦笑)。でも、これは一種の修行だと思ってがんばりました。大きい予算を使って映画をつくって、完成した作品を配給して、という一連の流れを経験することが、当時の僕には必要なことでしたから。
 
聞き手:杉山亮一(映画ライター)

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