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2012.11.01
[インタビュー]
公式インタビュー コンペティション 『NO』

ダニエル・マルク・ドレフュス(プロデューサー)(『NO』)
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©2012 TIFF

 
1998年に行われチリの軍事独裁者ピノチェトが失脚した国民投票で、政権にNOを唱えた陣営のテレビ広告キャンペーンに焦点を当てた『NO』。チリと米国の合作で、米側のプロデューサー、ダニエル・マルク・ドレフュスは若干33歳だ。主演のガエル・ガルシア・ベルナルは同い年で、パブロ・ラライン監督も2つ年上。若い力が中心となって、24年前に起きた大きな歴史の変わり目を浮き彫りにし、独創的な視点であらためて検証した意義は大きい。アカデミー賞外国語映画賞のチリ代表に選出されたのも納得の野心作だ。
 
――米国サイドとして企画に賛同した経緯は?
 
ダニエル・マルク・ドレフュス(以下、ドレフュス):既にプロジェクトは進行していて、監督の兄でもあるもうひとりのプロデューサー、ファン・デ・ディオス・ララインに紹介されたとき、すぐに恋に落ちてしまった。理由はふたつ。ひとつは、僕が小さいころブラジルで育ったという背景がある。その頃はブラジルも独裁政権で、政治学者だった父親がそれをテーマに扱っていたため非常に政治色の強い家庭で育った。アルゼンチンやウルグアイなども独裁政権があった地域だし、プロデューサーとして南米に共通する歴史を伝えたいと強く感じたんだ。もうひとつは、こちらがメインになるけれど、この映画が良い出来上がりになればチリ国内だけではなく、世界中に手を広げられるんでじゃないかと思った。ストーリー自体はチリの現実を表現しているけれど、国境を越えて世界中の人に見てもらい、インスパイアを受けてほしかった。ピノチェト政権はもちろん、チリという国のことを知らない人もいるかもしれないけれど、80年代というインターネットもない時代の独裁政権で、予算も人もいないのに自由と権利を求めてこれだけ大規模なことができたということを知ってもらい、自分たちの現実と照らし合わせて勇気をもらってほしいなと思ったからなんだ。
 
――世界へ発信する上で、ガエル・ガルシア・ベルナルのキャスティングは大きかったのでは?
 
ドレフュス:まずは見てもらえないと、こういう現状があることが分かってもらえない。その意味ではエンタテインメントとしての役割も重要なので、ガエルをキャスティングできたのはすごくラッキーだったと思う。彼は素晴らしい俳優で、人としても愛情豊か。そして、いろいろな国の政治にも明るいことが作品に役立ったし、さらに幅広い観客にリーチする可能性が広がったと思う。実際にカンヌ国際映画祭でも上映されているからね。
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©2012 TIFF

 
――ピノチェトは2006年に死去したが、いまだに親派は残っていると聞く。製作する上で困難・障害はなかったのか?
 
ドレフュス:彼をまだサポートする人間は存在していると思うけれど、表立って発言をすることはない。チリという国は独裁政権のトラウマを乗り越えて、どんどん発言力を持つ国になってきたので、撮影を制限することは一切なかった。チリでは8月に公開されたけれど、この作品で語っている自由に対するメッセージはチリの人たちにもしっかりと受け止められている。

 
――1988年当時のニュース映像が鮮烈でした。
 
ドレフュス:国民投票のキャンペーンは27日間でYES陣営とNO陣営がテレビで論戦を交わしたんだけれど、公共に放送されたものなので、フッテージ自体はテレビ局にもあった。ただそれを映画のなかでどのように使っていくか、そしてその映像を実際に撮影した映像にしっかりと溶け込ませるための工夫は凝らされているよ。
 
――そのために、撮影にはアナログの日本製カメラを使ったと?
 
ドレフュス:ソニー製をオンラインで買ったんだ(笑)。これはパブロが決めたことで、彼はいろいろなフォーマットをテストして、オリジナルの映像を一番うまく再現できるのはオリジナルの機材を使うことだと結論付けた。リスキーなやり方だけれど、クリエイティブな観点からは完全にサポートできている。確かに見た目はチープかもしれないが、チープに見せるためにものすごくお金を使っているんだよ。考え方として、見た目は美しくないけれど、独裁政権自体が美しいものはなかったので、本当に醜い時代を表現するのにあまりきれいな映像にしてしまっては意味がないだろうと。そしてビジネスよりもアートを優先させるべきだと考えていたので、この物語を伝えるためには80年代のカメラを使うのが一番の方法だった。エンタテインメント的な要素と社会的な目的の双方を達成できる、正しい決断だったんじゃないかな。
 
――世界に広げていくなかで、東京国際映画祭に出品された意義は?
 
ドレフュス:観客の反応も素晴らしくて、ほぼ満席だったと思うけれど、皆さんが終わった後に拍手をしてくれた。日本人はどちらかというと引っ込み思案であまりオープンにならないと思っていたけれど、すごく関心を持って参加してくれている、映画に親近感を持ってくれていると思った。ちょっとビックリしたのは、(上映後の)Q&Aが終わって外に出たらたくさんの人が待っていてくれて、私と話したりサインを求められたり、「感動しました」と言ってくれる人もいたし、「この映画を作ってくれてありがとうございました」と泣きながら寄ってきてくれた女の子もいた。こういうことがあるから、僕たちは映画を製作すると思う。一部の方でもこのくらい深く感動してもらえたら、僕は自分の仕事ができたんだと思えるからね。
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©2012 TIFF

 
聞き手:鈴木 元(映画ジャーナリスト)

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