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2012.11.01
[インタビュー]
公式インタビュー コンペティション 審査委員長 ロジャー・コーマン

 第25回東京国際映画祭は、フランス映画『もうひとりの息子』が東京 サクラ グランプリ、最優秀監督賞の二冠に輝き幕を閉じた。コンペティションの審査委員長を務めた映画監督・プロデューサーのロジャー・コーマン氏は、「穏やかな雰囲気のなかで楽しく審査することができ、主要な賞は満場一致で決まった」と満足げに振り返る。
1994年、京都で開催された第7回大会でヤングシネマ・コンペティションの審査委員長だった頃と比較し、映画祭として成熟したと評価。今後のさらなる飛躍にも期待していた。
ロジャー・コーマン

©2012 TIFF

 
――コンペティションの出品作を振り返って。
 
ロジャー・コーマン(以下、コーマン):1000本以上のなかから選ばれた15本は、それぞれの国の文化、政治的な考え、信念の違いがよく出ていた。
 
――賞の選考に関しては、かなり議論を戦わせたのか?
 
コーマン:これまで多くの映画祭で審査員を経験してきたが、これほどフレンドリーな環境で和やかな選考ができたのは初めて。選考は各賞ごとに審査員に3本ずつ順位をつけて挙げてもらったが、その3本も一致しているくらいスムーズで、主要な賞は満場一致で決まった。こんなことは珍しい。
 
――『もうひとりの息子』が東京 サクラ グランプリを受賞した決め手は?
 
コーマン:選考の基準となったのはとにかく映画の品質。『もうひとりの息子』は、1948年から紛争が始まり、いまだに続いているイスラエルとパレスチナの問題について、双方を平等のバランスで見せている映画。政治的な背景だけでなく、微妙でセンシティブな題材を扱っているが、人間は皆平等であるというシンプルなことを私たちに伝えてくれた。また審査員の話し合いで、グランプリ作品の監督は素晴らしい演出をしたわけだから必然的に監督賞につながるということを決めていた。
 
――1作品に複数の賞を贈ると、往々にして有力な作品が少なかったと言われるが。
 
コーマン:それは気にしていない。最優秀男優賞に関しては『NO』のガエル・ガルシア・ベルナルも候補だった。一番困難だったのは最優秀女優賞で、随分多くの名前が挙がった。ただ、『もうひとりの息子』は先ほど言ったが、審査員特別賞と最優秀男優賞の『未熟な犯罪者』も、近代においてはどの国でも問題としてある社会の一番底辺のところに生まれてしまった人々の、ほとんど希望がない状態を描きながら、ラストシーンでもしかしたら希望があるのではと感じさせてくれる作品。そういう意味でどちらも満場一致だった。
ロジャー・コーマン

©2012 TIFF

 

――日本から出品され観客賞を受賞した『フラッシュバックメモリーズ 3D』の評価は?
 
コーマン:とても大好きな作品だ。特に音楽が非常に良かった。今まで、ああいう音楽があることを知らなかった。そして、あの楽器(ディジュリドゥ)。オーストラリアの先住民のものだそうだが、それを日本のパフォーマーが演奏しアンダーグラウンドのスターになっていく非常に面白い作品だったと思う。この作品でもひとつ言えることは希望。交通事故に遭ったGOMAさんがパフォーマーとしてカムバックしたのだから。そして3Dもピッタリだった、特にあの楽器が画面が突き出てくるところなんか、テクニカルな面においても背景のイメージを非常にうまく作っていたと思う。
 
――東京国際映画祭が、世界の名だたる映画祭に肩を並べるには何が必要か?
 
コーマン:94年にヤングシネマの審査委員長として来ているが、そのときと比べると非常に洗練された素晴らしい位置まできていると思う。作品も、いいものがたくさんあった。何かひとつ足りないとしたら宣伝。もっと世の中の人に東京国際映画祭ここにありという、パブリシティをしたらいいんじゃないか。
 
――国際映画祭とはどういうものであるべきと考えているか?
 
コーマン:いろいろな国の文化が紹介される、本当に品質のいい映画が集まる場。今回は賞の対象にならなかったが、個人的にはインドネシアの『ティモール島アタンブア39℃』が好きだった。なぜなら、インドネシアの映画は商業的に成功して、世界中の人が見られるものではない。映画祭だからこそ見ることができるからだ。非常に素朴な社会の出来事を見ることができたし、国際映画祭は一方でドイツやスカンジナビア諸国の近代的な社会を描いているものもある。とりあえず思うのは、どこの映画祭であろうと一番大事なのは作品が観客を楽しませること。そして、そのなかから何か心に響くような感情をもたせられればいい。
ロジャー・コーマン

©2012 TIFF

 
聞き手:鈴木 元(映画ジャーナリスト)

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第24回 東京国際映画祭(2011年度)