10/26(金)WORLD CINEMA『ある嘘つきの物語 モンティ・パイソンのグレアム・チャップマン自伝』の上映後、ベン・ティムレットさん(監督/プロデューサー)が登壇し、Q&Aが行われました。
矢田部PD:ベンさん、ようこそ。ステキな作品を東京に紹介することができて光栄です。
ベン・ティムレット監督(以下、ティムレット監督):ハロー。ベン・ティムレットです。今日はロンドン代表としてやってきました。映画を観て、楽しんでくれてありがとう。この作品には3人監督がいて、僕はそのうちのひとりです。残りの2人はとても怠け者でねえ。僕は勤勉だから来ちゃいましたよ(笑)。
矢田部PD:監督はまだ若く見えますが、70年代に活躍した人物を映画にしようと思ったのはなぜでしょう?
ティムレット監督:自分で言うほど若くないよ(笑)。実はビジネス・パートナーで共同監督のひとり、ビル・ジョーンズが偶然にもテリー・ジョーンズの息子なんですよ──というのはウソ。こんなこと、イギリスで言っても誰も信じちゃくれません。
矢田部PD:でもホントの話ですよね?
ティムレット監督:バレたか(場内爆笑)。これぞ真実。ホントです。もともと、モンティ・パイソンの40周年を記念したドキュメンタリー・シリーズをビルと僕で作っていたら──“Monty Python:Almost the Truth (The Lawyers Cut)”というもので、長いタイトルがお気に入りなんです──、3人目の監督となるジェフ・シンプソンが声をかけてきたのがきっかけです。
ジェフはなぜグレアム・チャップマンの映画を作りたかったのか。その理由が奮っていて、「グレアムは生前、ゲイであることを隠さなかったのに、アル中であることをひた隠しにしていた。不思議な人物だよ」というのです。俄然、興味が湧いてきました。
そこで、グレアムの長年のパートナーであるデヴィッド・シャーロック(ボティチェッリの絵のヴィーナス役で映画にも登場しますよ!)に、遺品とか、ホーム・ムービーの映像は残ってないかと聞いたんです。デヴィッドは興味をもって探してくれたけど、使えそうなものは何も見つからない。ただ最後に、テープがあると教えてくれました。映画と同じ「ある嘘つきの自叙伝」(原題)というタイトルのもので、ハリー・ニルソンのスタジオで、将来出版する自伝のために録音していたものです。
テープはなかなか見つからなかったけど、ついにジェフが発見して、これを素材に作ろうと決めました。でもどんなふうに利用するかは、ずいぶん頭をヒネりましたね。最初は周辺人物にインタビューするオーソドックスなドキュメンタリーを考えていたけど、結局、他のパイソンのメンバーにも声で出演してもらい、編集段階で工夫して、グレアムがぜんぶ語っているようにできないかというアイデアに落ち着きました。
Q:3Dでいろんなスタイルのアニメを駆使しているのは、どんな理由からですか?
ティムレット監督:陳腐さをウリにしたかったんだ(笑)。これは資金集めのとき大いに効力を発揮したよ。「今は亡きグレアム・チャップマンが3Dで蘇る」(場内爆笑)。シツレイ。真面目に話すと、種類の異なるいろんなスタイルのアニメを集めて、3Dでやるのが面白いと思ったんです。あるアニメの製作チームは3D経験があるという触れ込みで雇ったのに、数ヶ月後にウソだったとわかった。私たちを含めて、誰ひとり3D経験者がいない現場だったので、みんなで一から3D技法を勉強しました。結局、ポスターには「シット・オン・マイ・フェイス(私の顔にお座り)in 3D」と入れました(笑)。
矢田部PD:モンティ・パイソンのメンバーには、どのように連絡したのですか?
ティムレット監督:ビルを通じて頼んだけど、コネがあったからすぐOKが取れましたよ(笑)。パイソンとは40周年のドキュメンタリーを作ったときにも会っていて、彼らもインタビュー形式での出演には飽き飽きしていたけど、グレアム・チャップマンの映画で彼と一緒に演じてほしいと言ったら、喜んで引き受けてくれたんだ。
Q:子どもの時にモンティ・パイソンにハマッて、こんな大人になってしまいました(笑)。オリジナルで、監督が特に気に入っている場面があれば教えて下さい。
ティムレット監督:最も気に入っているのは『ライフ・オブ・ブライアン』の、ブライアン(グレアム・チャップマン)のもとに集まった群衆が「私たちはみな違う人間です」と連呼し、その中のひとりが異議を唱えようとして制される場面。わからなかったら、ぜひ見て下さい!
矢田部PD:「空飛ぶモンティ・パイソン」のスケッチからは?
ティムレット監督:有名な「フィッシュ・スラッピング・ダンス」、グレアムが馬鹿でかい鼻を着けてインタビューに答えるスケッチ(「レイモンド・ラグジュアリー・ヤッチト」)です。
Q:映画では、『ライフ・オブ・ブライアン』などの映像を使用していますが、過去のフッテージを選択するにあたって、どんなところを尊重しましたか?
ティムレット監督:ファンへの目配せとして、皆さんが観たがるオチの寸前で、別の場面に切り替わるイジワルをしました(笑)。パイソンのファンだったら、絶対にスペイン宗教裁判のスケッチは欠かせませんが、ワザと切ったのは皆さんへの目配せです。グレアムが猿に扮して話す場面は、『ライフ・オブ・ブライアン』のオリジナル・スケッチとして吹き込まれていたものがあって、アル中から立ち直ったグレアムが、どんな心理状態にあったかを伝えたくて、加えました。
Q:今回、エリック・アイドルが参加しなかった理由は何でしょう?
ティムレット監督:多忙だったからです(場内爆笑)。
矢田部PD:これが公式見解でしょうか?
ティムレット監督:政治家の言う公式見解です。その後、審議されることになる(笑)。
矢田部PD:ここだけの話、実際どうだったのでしょう?
ティムレット監督:答えはアニメーションにありますよ(笑)
Q:First of all, thank you very much for the wonderful film. As a huge fan of Monty Python, I quite enjoyed it. Especially, the animation of each scene matches each scene perfectly. How did you select and assign animators to each scene? (素敵な映画を上映してくれた映画祭に感謝します。モンティ・パイソンの大ファンで、大変楽しめました。質問ですが、シーンごとにいろんなスタイルのアニメを使っているのに、完璧にマッチしていました。いったい、どんなふうに各シーンのアニメーターを選んだのですか?)
ティムレット監督:ソーリー。これは日本語のQ&Aセッションだから、英語の質問は受け付けないよ(場内大爆笑)。アニメーション担当のジャスティン・ワイズがいろんなアニメを紹介してくれて、それを僕たち3人で検討したんだ。僕たちの趣味に適っていて、各シーンにマッチする人を探したけど、実にいろんなスタイルのアニメがあって驚いたなあ。いろんな会社に依頼して、期待どおりだったりガッカリだったり、期待とは違うけど嬉しい驚きを感じたりと、試行錯誤に長い時間がかかったけれど、すごく楽しかった。アニメーターにコメディ・センスがあるかどうかも、大切な判断基準だったね。
矢田部PD:次にご質問のある方は? あっ、映画評論家の大場正明さんが手を挙げていらっしゃいますね。
大場正明(以下、大場):ここにいる皆さんと同じで、トリッキーな作りで大変面白く拝見しました。エリック・アイドルのことは政治的な回答を聞いたので追求しませんが、それ以外に、映画を作るにあたってどんな苦労がありましたか。たとえば、予算はコネがあったからすぐに集まったんですか。また3人で監督して最初からゴールが見えていたのか、殴り合いのケンカの末に目出たく完成したんですか?
ティムレット監督:(イイ質問じゃないかと指でポーズ)3人でいたって民主的に採決したんだ。たまたま3人だから投票で2対1に割れるだろ。それがよかったんだ。最近ジェフから聞いたんだけど、ビルと僕は4歳からマブダチで今も仲良しだから、彼は僕らに意地悪されるんじゃないかと不安だったらしい。でも幼なじみというのは往々にして、ライバル心の方が優っているからね(笑)。お互いが違うことをやりたがって、ジェフがどちらにつくかでほぼ決着していったよ。
3人の作品に対するビジョンがまとまるかどうかは、正直、最初は不安だったなあ。だって、これだけ違うスタイルのアニメを1本の映画に入れるのは、本来ありえないことだから。グレアムが語る物語はあまりに奇想天外だから、物語ごとにうまく行くと思っていたけど、1本にまとめてどうなるかはとても心配だったね。うまく行ったかどうかは、みんなの拍手で決まると思うんだ(場内拍手)。サンキュー。拍手で言いたいことを忘れちゃったよ!
大場:予算のことを聞きたいね!
ティムレット監督:今の時代、どんな作品でも予算を集めるのは大変だよね。
この作品もそうだったけど、モンティ・パイソン映画ということで説明しやすく、理解も得られやすかった。そうした意味では、題材がプラスに働いたというのはある。ただ僕たちの場合は、どうしてもファイナル・カットの権利が欲しくて、それを手放さずに資金を集めたものだから、その点、困難もあった。でも作品を自分でコントロールすることを僕らはモンティ・パイソンのメンバーから教わったので、今回見習って追求したんです。この先、映画を作って、ファイナル・カットの権利を得られる保証は残念ながらないなあ。
大場:頑張ってください!
矢田部PD:キャメロン・ディアスさんはどんな経緯で出演されたのでしょう?
ティムレット監督:普通にメールを送ったら、イエスという返事をくれたんだ。「いつも同じような役で、さぞ、ご苦労されていると思います。心理学の祖フロイト役に誰もがアナタを抜擢したがり、もうウンザリと思っている。よく存じておりますが、もう1回だけ、この役を演じてもらえませんか?」ってね(笑)。