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2012.11.12
[インタビュー]
公式インタビュー コンペティション 『未熟な犯罪者』

カン・イグァン監督/イ・ジョンヒョン(女優)/ソ・ヨンジュ(俳優)(『未熟な犯罪者』)
未熟な犯罪者

©2012 TIFF

 
 コンペティション部門で審査員特別賞を受賞したカン・イグァン監督の『未熟な犯罪者』は、小さな罪を犯したことで少年院に入っていた少年ジグが、13年ぶりに未婚の母ヒョスンに再会する物語。ジグを演じたソ・ヨンジュもまた主演男優賞を受賞した注目の一作だ。劣悪な家庭環境の中であがく少年・少女。社会はそんな彼らが犯した小さな過ちを厳しく糾弾し、けして受け入れることはない。“果たして彼らは悪い人間なのだろうか?”、“怖い存在なのだろうか?”。そんな思いを抱きつつ本作の脚本もてがけたイグァン監督の優しいまなざしが登場人物に注がれ、見る者に問題提議を投げかける。
 
――ここで描かれるこのデリケートな問題は、韓国のみならずどこの国でも起こっている普遍的なテーマ。監督が映画化しようとしたきっかけは?
 
カン・イグァン監督(以下、イグァン監督):この映画は韓国の国家人権委員会の依頼を受けて撮ったものです。一般的な映画ですと、どうしても個人の話に集中しがちですが、現代は社会的な問題なくして人間を語れないと思います。たとえば校内暴力や過ちを犯した子供を描くという時に、彼ら個人だけでは語り尽くせません。そこには家庭環境、社会環境も大きく影響してきます。いま、罪を犯した子供たちに対して、とにかく厳しい処分を与えるべきだと言う世論も高まっていますしね。しかし私から言わせれば、過ちを犯してしまった子供たちは、彼ら自身のせいというより、周囲の環境に左右されていることが多いのです。両親の不在や、先生に恵まれていなかったり……。まわりにちゃんと話を聞いてあげて、アドバイスをしてくれる善い大人がいないということが不幸の始まりです。
もちろん、単に社会の制度を悪く言うだけではなく、別の見方、価値観を考えなければなりません。いまの社会はお金だけを目的に、お金だけを求める傾向にあります。そういうカリカリした大人たちは子供を子供として見ていない。子供を大人の目線で語ろうとしているから歪みが出てきてしまうのです。子供は、まだ子供なのだということを理解して、もっともっと彼らに関心を寄せて欲しい。そういう思いでこの作品を撮りました。
未熟な犯罪者

©2012 TIFF

 
――少女のころに未婚でジグを産んだ母ヒョスンは、息子との再会で母の自覚を芽生えさせつつも、行動はあまりにも未熟で危うい。イ・ジョンヒョンさんは、そんな若き母親をどのように理解して演じましたか?
 
イ・ジョンヒョン(以下、ジョンヒョン):彼女も息子のジグと同じように犯罪少女です。若くして産んだ子供を捨てて家出をして、落ちるところまで落ちた。ある意味、壊れた女性です。だから彼女は人生を諦めていたのですが、息子との再会で“これからは希望を持って生きなければいけない”と思う。人生のやり直しに希望を見いだした女性です。しかし現実的には、仕事も中途半端で、住まいすら友達の家に居候している状態。なにかをしようとすれば必ず誰かに頼らなければいけない。“お金を貸して?”、“息子を一緒に住まわせて”とか。でも、そんな辛い状況に置かれても、辛い顔でお願いするのは似合わないと思い、あえて笑顔でいるようにしました。そうすることで、息子との再会が彼女に大きな希望をもたらしたという変化を表現したかったのです。
 
――少年院から息子を連れ帰るシーンで、運転してきた車の駐車がとても雑でしたが、そんなところにも彼女のアンバランスな性格が見て取れました。それは台本にあったのですか?
 
ジョンヒョン:じつは私は運転がヘタなんです(笑)。あのシーンも、うまく駐車スペースに車を入れることができなくてNGでした。でも、あとであのシーンを見た監督が「これって、いいよ」ということで使われました。ヒョスンは、息子に対する見栄から友人から車を借りて迎えにいったわけですから、もともと運転もヘタということですね。未婚の母である彼女は、教育もお金も何もないのに虚栄心だけはある。だから、車もバッグも借りていい格好をしているだけなんです。
未熟な犯罪者

©2012 TIFF

 
イグァン監督:息子のジグは、最初“母はどういう人なのか?”と探るまなざしで見ている。それは観客の視線と同じですよね。そこで僕は、駐車のシーンなど、彼女の大人になりきれていない内面がわかるような小さなエピソードをいくつかちりばめておきました。
 
――ソ・ヨンジュさんは600人の中からジグ役に抜擢されましたがそのときの感想は?
 
ソ・ヨンンジュ(以下、ヨンジュ):まず、すごい倍率の中から僕を選んでくれた監督に感謝したいと思います。
(そこで、ジョンヒョンが「私も選考の場にいたのよ」と笑顔で、)
はい、ジョンヒョンさんが僕を監督に推薦してくれたことは知っています。それがあったからこそ監督も僕を選んでくれたのだと思っていて、もちろん、すごく感謝してます。
未熟な犯罪者

©2012 TIFF

 
――ジグを演じる上でむずかしかった点は?
 
ヨンジュ:監督が望んでいたのは自然な演技だったのですが、僕の場合どうしてもオーバーになったりぎこちなくなったりしてしまう。自然の演技を意識すればするほどぎくしゃくしてしまい、とても困りました。でも、そんなときはジョンヒョンさんが側にきて“こんな感じでやったらいいよ”と、何回も的確なアドバイスをしてくれて助かりました。
 
ジョンヒョン:最初はちょっとよそよそしくて、困ったなぁと思っていたのよ(笑)
 
ヨンジュ:あの、ジョンヒョンお姐さんに会った最初の頃は…恥ずかしくてぎこちなかったと思います。お姉さんに慣れるのがけっこう大変だったんです。(小声で)ぼく、女性がちょっと苦手で。
 
イグァン監督&ジョンヒョン:爆笑!
 
――母ヒョスンも未婚の家出少女、息子も犯罪少年、そしてそのガールフレンドもヒョスンと同じような人生を歩み始める。いわば「負の連鎖」に心が痛いです。しかも、ラストは見る者に委ねられている。そこに監督の見識と知性を感じますが意識していましたか?
 
イグァン監督:この母と息子は本当に困難な状況にあります。だから脚本を書いているときも、“果たしてこの2人を再会させることがいいことなのか?”、“会ったことでなにかいいことはあるのか? かえって悪くなるのではないか?”と考えていました。撮影中も最初はその疑問を抱いていました。でも私が出した結論は、たとえ結果がどうなろうと、かりに悪い状況になっても、やはり親子が会って顔を見て愛を確認することが何より大事だということです。そして、辛い者同士が出会った時ほど逆に助け合い、思いあって、少しでもいい方向に物事が進むかもしれない。そんな前向きな思いを、観客の皆さんに感じ取っていただけたらいいなと思いました。
 
聞き手:金子裕子(映画ライター)

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