10/26(金)『カラスの親指 by rule of CROW’s thumb』の舞台挨拶が行われ、上映前に伊藤匡史監督が登壇、監督からキャストの撮影エピソードが紹介されました。
『カラスの親指 by rule of CROW’s thumb』、原作は道尾秀介さんのベストセラー小説。20世紀フォックスによる邦画作品第1弾として製作されました(公開は『はやぶさ』が先)。日本流のエンターテイメント作品を目指したという伊藤匡史監督から主要キャストのエピソードを紹介していただきました。
武沢竹夫役:阿部 寛さんについて
伊藤匡史監督:僕も今まで色々な役者さんと仕事をしてきましたが、阿部さんは本当にストイックに役者という仕事に取り組んでいる方で、そのストイックさはNo1だと思いました。阿部さんは僕から見ると、役になりきるとより、客観的に役を見て、何をするべきかということを冷静に考える方です。そういう方でストイックさを感じるというのが、全く稀有な存在で、初めてでした。
とにかく(役について)考えて、とことん考える。僕はこの仕事を20年以上やっていますが、それでも初めて聞くようなことがいくつもありました。“阿部さん、そんなことまで考えてるの?そんなことまでやってるの?”ということが何回もありました。
この間この作品の初号試写の時にお話ししたのですが、今まで自分の仕事に満足したことなんてないんだ、ほとんどないくらいの言い方をしていらっしゃいました。そこまでストイックに考えている方ですが、この映画を初めて見た阿部さんが、本当にこの作品には満足したと、初めて自分の想像を超える出来だったと言ってくれました。ご自身でも、“多分この作品が(自分の)代表作になるんじゃないかな”と、本当に自信を持っていらっしゃるので、そういう意味でも期待をして見ていただきたいと思います。
阿部さんはこれまで、変な人というかコミカルな役をやっていることも多かったですよね。この作品に出ている阿部さんは、本当に僕から見ても、すごく好きな、自然な魅力が出ていると思います。
入川鉄巳役:村上ショージさんについて
伊藤匡史監督:原作を知っている人、知らない人にも意外に思われる重要な役です。キャスティングした理由ははっきりあるのですが、探している時は分厚いタレント名鑑を10年振りくらいに一から全部見直しました。それから、これはショージさんしかいない、と決めました。
ショージさんにお会いした時に、すでに脚本を読まれていて重要な役だとわかっていたんですが、開口一番に、“監督、僕、もうホンマに知りまへんで”と言われました。ショージさんは、役者としては新人のようなものなので、一から十までこっちで指示をしてやっていただきました。でも考えてみれば、お笑い界では「師匠」と呼ばれている方なわけですよね。だから一回り下の僕に、あーだこーだ言われてイヤだったかなと思いましたね。でもそれからショージさんとはお酒を飲む間柄になって、撮影中もよく一緒に飲んでいました。いつも言ってくれたのは、“もっと指示して欲しい”と、“僕はとことんまでやって良い作品にしたいんだ”とおっしゃっていただきました。そんな事もあったので、本当に阿部さんとショージさんは戦友だなと思っています。今まで、そういう経験は少なかったのですが、今回の撮影では本当にそういう実感を持てて、いい時間を過ごせたなと思っています。
河合やひろ役:石原さとみさんについて
伊藤匡史監督:石原さんには、本当に驚かされました。僕がそういうイメージを持っていなかったんですけれども、とにかく映画の事を本当に良く知っていて、頭の回転も早くて、観察眼も鋭くて、ものすごい人でした。ちょっと技術的な話になってしまうのですが、役者さんが芝居をしている上で色々なカットを撮影するのですが、その役者さんの動き、次のシーンへのつながりっていうのがあるんですね。こういう表情をして、こういう風に動く。そこで一旦撮影を止めて、(キャメラ位置などの)切り替えをして、次のカットではまた同じような動きをする、次のカットはここから使うんだな、だからこういう芝居をすればいいんだな、そういうことを瞬時に考えられる人でしたね。どうして驚くかというと今は、あまりそういう撮影方法ってしていないんですね、テレビだと同時に何台ものカメラで撮る。そうなると、一旦止めた後の動きに対する意識を持たなくても済むわけですが、彼女はまだ20代半ばでどうしてそんなことまで考えてるのかなと、これは単純に仕事に対する、興味というか、取り組み方に並外れたものがあるなと思いました。
それに役者としての運動能力が高いなと感心しました。ピンとこないかと思うんですが、スポーツの運動神経と役者さんのそれとはちょっと違うんですね。役者さんて普通にセリフを喋っているだけじゃなくて、たとえば、喋りながら椅子に腰掛けたり、自然に壁にもたれかかってきたりする動きですが、多分普通の素人の方に、呼ばれたら振り返ってと言われてもなかなか上手く出来ないと思うんですよ。観客の皆さんもご自宅に帰ってやってみると面白いと思うんですけれども、ただ二度見するとか、やれって言われると自然に出来ない、そういう役者としての運動能力が、取り組みと同様に並外れていまして、本当にしなやかに動くんですね。僕とショージさんで酒を飲むと、いつも彼女は天才だって言っていました。
河合まひろ役:能年玲奈さんについて
伊藤匡史監督:能年さんはこの作品の後から、来年のNHKの朝ドラのヒロインなど大ブレイクするようで、僕もビックリしています。彼女に最初に会ったのは、去年の頭頃のオーディションで、もう2年前くらいになりますね。多くのオーディションを開いて、多くの人の中から選びましたが、実はこのまひろ役にキャラクターが合っているということではなかったんですね。何故彼女にしたかという事なんですけれども、二つ理由があります。一つはものすごい単純ですが、ショートカットが似合っていました(笑)。(内容に関わるので)言いませんが、映画の中でまひろ役はショートカットでいくと決めました。オーディションには長い髪の子が多かったので、ショートのカツラをかぶってオーディションを受けてもらっていました。能年さんはロングヘアだったんですが、ショートがすごく似合っていて、この子髪切ったらブレイクするんじゃないかっていう、一つ目の理由はそれでした。もう一つの理由は、役の事ですが、今の若い子って普通に、自然に芝居が出来る人が多いんですね。普通に話しをしていて、じゃあ芝居を、ってオーディションで言うと、割と自分自身の延長線上で、スッと芝居が出来ちゃうんですが、能年さんはむしろそうじゃなくて、カチッとスイッチを切り替えるタイプでした。そういうタイプの方はやりすぎるというか、芝居が過剰になってしまうという時もあるんですが、彼女はそういう時もないんですよ。スイッチを切り替えるタイプでありながら、なおかつやりすぎることが無い。芝居の何が正解かっていうのは、色々あると思いますが、僕の価値観でいうと、役者としての素養があるなという風に判断しました。今回のまひろ役というのは脚本の設定が最初の時から一番変わっています。でもそれは能年さんに合わせたんじゃなくて、彼女の表に出ていない部分がどんどん出てくればいいなと、色々と考えました。そのこちらの要求を一つ一つ彼女がクリアして、彼女の名刺代わりになるようなとてもいい芝居になっていると思います。
石屋貫太郎役:小柳 友さんについて
伊藤匡史監督:彼も真面目でストイックな人です。そんなに真剣で疲れないかなと心配になるくらいの人でした。今回、坊主頭にするという設定も二つ返事で引き受けてくれましたし、この映画のために彼は10キロ太りました。ハリウッドなどではよくある役作りかもしれませんが、日本の役者さんて、海外の役者さんみたいに長い時間をかけられないんですね。小柳さんはこの映画の直前まで連ドラをやっていましたし、その関係で本当に短い期間で、10キロ増量したのではないかと。もともとモデルの仕事もやっていると言ってましたが、朝昼晩3食3合食べていると言っていたので、相当辛かったんじゃないかと思います。
最後に観客の皆さんへメッセージ
伊藤匡史監督: 20世紀フォックスという看板はついているのですが、某刑事さんの映画とか某海上保安庁さんの映画と比べると、手作りのような予算の映画です(笑)。これから見る方は、なにも考えずに無心で見ていただければと思います。気に入っていただけた方は、臨時宣伝員になったつもりで広げていただければ、皆さんが育てて、大勢の人が見てくれる映画になると思います。本当にありがとうございます。