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2012.10.13
[インタビュー]
邦画ファン、映画製作関係者必見!!スペシャル企画~東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門 座談会 (中編)

「日本映画・ある視点」部門 座談会

 

スペシャル企画~東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門 座談会 (中編)
 
映画館(こや)の番組編成プロたちが、今のインディペンデント映画界を語る。
そして、本年度「日本映画・ある視点」の見どころも満載! 激論白熱!?の第2弾!!
 
北條誠人(ユーロスペース支配人)×家田祐明(K’s cinema番組編成)×沢村敏(東京テアトル株式会社 映像事業部 興行部番組編成)
司会:矢田部吉彦(TIFFプログラミング・ディレクター)
 
 
若手監督が育ち、我々の劇場にまた凱旋で戻ってくれるのが理想
 
矢田部:沢村さんはよく若い監督と接しています。
 
沢村:僕はただ利用して下さいというだけですよ。作品によっては、レイトショーじゃない公開がいいという希望も出ますし、大きなキャパでイベントかましてドンといこうというものも希望としてはアリだし、まあ、どんどん利用して下さいと。ただ、次に繋がっていってほしいとは思います。
映画太郎>の上映会をやったときも、監督たちに招待券を渡して、自分たちで使うのではなく、プロデューサーに宣伝するための予備広告用に使って下さいと言いました。
 
矢田部:家田さんがユーロやテアトルにいくと、成長したと思えると言いましたが、劇場の編成担当者がこんなふうに会って話をすることはあるんでしょうか。
 
北條:あんまりないですね(笑)。
北條誠人

©2012 TIFF

 
沢村:個別に、どこかと打ち合わせすることはあるかもしれないけど。
 
矢田部:では、お互い監督を薦めるということはありませんか。うちでは掛けられないけれど、そちらでどうです、みたいな。
 
北條:あまりない、というか、何でだろう。
 
矢田部:劇場業界は情報交換とか、その辺りどうなっているのかと思ったのですが。
 
沢村:ある意味ライバルですからね(笑)。
 
家田:ただ、ユーロやテアトルで何をやって入っているかというのは、直接聞かなくても情報として仕入れたり、気にかけたりしていますけれどね。ある意味、劇場同士、闘いあう環境も必然ですから。ウチは彼を推しているけど、あそこは誰を推しているという環境もいいと思います。
 
矢田部:観客サイドからすれば活性化されていいですよね。劇場同士はそれどころではないかもしれませんが(笑)。
 
沢村:意外と必死ですよね(笑)。
沢村敏

©2012 TIFF

 
北條:予算が2千万円以上になると、もうインディペンデントと呼べなくなる。でも、2千万円以上の作品が撮れる監督というのはかなり限られてきますよね。だから、監督と劇場がどこまで付き合っていけるのかという問題と、仮に、ある監督と長く付き合ったところで、その監督は所詮ユーロのハコの大きさでしかビジネスができなくなってしまうという問題もある。
ユーロで1万人超えをやって全国でもう1万人、つまり、2万人規模の作品しかビジネスできなくなるというのは、その人にとってみればマイナスですよね。あるところで作家も、今までの枠を超えていってほしいというのはあります。理想的なことを言えば、チェーンの仕事をして自分のやりたい仕事をミニ・シアターで、予算をダウンしたやり方でも尖ったことをやってほしいというのが、一番、理想的な考えですよね。たとえば、瀬々敬久監督が、『アントキノイノチ』のような大きな作品をやる一方で、『ヘヴンズ ストーリー』をヒイヒイ言いながら作ったり、上映したりしているのを横で見ているのは楽しい(笑)。
 
沢村:ウチだったら若松孝二監督や塚本晋也監督など、大御所の監督たちが自らプロデュースされて、バジェットの大きくない作品をあげてくる動きもありますね。森直人さんはそれを「液状化」と言っていますけれども。
 
北條:いや、「往還」ですね。往って還るという…。
 
矢田部:若手の作家がユーロならユーロで育って、次のステップとしてもう少し全国展開できるようになって、また戻って来てくれるというのはたしかに理想的なのかもしれません。
 
北條:それは希望ですよね。劇場としてのモチベーションも高まる。日本映画との接し方でいえば、それが一番理想的ですね。
 
沢村:たいてい戻ってこないでしょう(笑)。
 
家田:小さい映画をやるときに、「君は将来、大きい映画撮るでしょう。3本撮ったら1本くらい小さい作品、撮って帰ってきてよ。取り決めね」って、そういう約束をしたいです(笑)。
家田祐明
 
矢田部:(制作費が)2千万円より上に入れる監督は限られてくると言いましたが、北條さんは今、注目している存在はいますか?
 
北條:若手の監督や、1億円以上のバジェットでの監督という人はいますが、真ん中がスコンと抜けているというのが現状です。
 
矢田部:沢村さんや家田さんはいかがでしょう。2千万円の予算で撮れる若い監督が空洞化していると考えますか?
 
沢村:空洞化していると言えばそうかもしれません。目を付けている監督はいますけど。
 
矢田部:より低予算、より若手で注目している監督はどうでしょう。
 
北條:私は、木村有理子さん。<桃まつり>の。あの人は凄いなと思います。
 
矢田部:どういうところですか。
 
北條:妙に醒めている演出が好きですね。我々が育ったミニ・シアター文化のいい意味での影響が感じられる。今風でない演出に、人間を観察しているなあと感じます。ユーロで<桃まつり>をやったのは、私にとってひとつの成果ですね。
 
矢田部:<桃まつり>はいい企画でしたね。家田さんは誰かいますか?
 
家田:自分のところの劇場で封切りした人ではないのですけれど、2010年の作品で『チャンドマニ 〜モンゴル ホーミーの源流へ~』というのがあって、その亀井岳監督には注目しています。
彼が凄いのは日本で撮ろうとしないで、撮りたくなったら海外で現地の人間を使ってやろうとするところです。自主映画とはいえ新しい発想で、本人に実際どれぐらいの予算で撮ったのか聞いたら、限りなく安かった。スタッフの数を聞くと、カメラマンと監督の2人だけ。それで充分、見応えのある作品に仕上がっていた。最近聞いたら、今度はマダガスカルに2人で行って、撮ったものを編集しているらしいです。新しい動きというか、やり方を変えれば邦画も面白い。新しいタイプの人間が出てきたなと思いますね。今のドラマ性のある自主映画がダメという訳ではないけれど、新しいタイプの監督が出てきたという感じです。
 
矢田部:沢村さんは?
 
沢村:最近ですと、鈴木太一監督や、K’s cinemaでもやった今泉力哉監督もいますけど、今は片岡翔監督ですね。PFFも絡んでいてよく名前が出てくるようになったのですが、かなり特異な個性です。でも、いいプロデューサーと組んだら才能を発揮できるんじゃないかという期待値があって、深川栄洋監督がうちで『狼少女』をやったときに近い感触がある。こういう監督がどんどん出てくればいいなと思います。
そういう意味では、いろんなプロデューサーに紹介したり、話があったときは、なるべく早めに話が進むような態勢を取っています。
 
先行するスター監督にインディペンデント映画界を牽引してもらう
 
矢田部:こうやって三人三様の名前が出て来るのは面白いですね。ちょっと質問の順番を間違えてしまって、ひとつだけ聞いておきたいのですが、入江悠監督と松江哲明監督がインディ界のスターとして出てきました。彼らの世代がひとつのブームを作って引っ張っていけばいいなと勝手な希望を抱いていますが、彼らの存在に刺激されて、下の世代が頑張っているという図式はあるでしょうか。
 
北條:でも、スターは必要ですよね。スターがいない限り若手は出てこない。ただ、今の若手が他者の興味をもっているのか私にはわからない。
 
家田:他の監督の作品を見たりしないということですか?
 
北條:少し年長の監督や、年下の作品を積極的に見ている感じがあんまりしないですね。
 
沢村:結構、ライバル心ありますよ。僕は刺激し合っているように見えますけど。逆に、それが外から見ると内々でやっているように見えてしまうかもしれない。
 
家田:たしかに内々ではあります。<MOOSIC LAB>とか<映画太郎>が終わって劇場に見に行くと、毎回、同じ顔ぶれが来ている。ワークショップも増えて、学校関連の集まりが増えたからかもしれませんが。
 
矢田部:映画学校が多いという現象が指摘されましたけれど、それはインディペンデント界にとっていいことですか?
 
沢村:映画学校やワークショップにもいろいろな特色がありますから。これは映画美学校寄り、こっちはニューシネマワークショップかな、とか。
 
矢田部:芸大色とかENBU色とか見えてきて、今はちょっと面白い感じですね。
 
家田:10年前だったら、あんまりそういうのはなかったじゃないですか。映画を撮っている若い人はイメージフォーラムに通っている子がやたら多かった。今はフォーラム寄りの個人的な作品もの、実験映画的な作品も減ってきた感じがします。
 
沢村:最近はCGも使うし役者さんも使いますからね。そういう意味では線引きがない。プロデューサーのいる自主映画もありますからね。
 
家田:若い監督では自主映画というより、ちゃんとギャラをもらって撮りたいという人が増えてきていますよね。
 
沢村:それはよく聞きますね。
 
家田:今後どうするのかと監督に聞くと、「自主はシンドイ」と。結局、役者さんにギャラを払えないから、やってほしいけれど使えない。自主をやっているとお金が出ていくだけで、もうやりたくないというのが本音だというのを聞いたことがあります。
 
沢村:北條さんが先ほど言った、どこへいきたいのかに繋がるのですね。
 
北條:もう一方の問いかけとして、そんなに多くの人が監督になる必要性があるのか。あるところで淘汰ラインというものが出て来るのだと思います。
 
矢田部:映画祭の作品の話に繋げていきたいのですが、沢村さんが片岡翔監督は『狼少女』の頃の深川監督を彷彿させると言いました。『狼少女』は05年に「日本映画・ある視点」で上映して、そこでプロデューサーの目にとまり、深川監督が大きな作品を手掛けていくきっかけとなった。
その深川監督が今年、この部門の審査員に就任して下さいました。皆さんにも今回の出品作をご覧頂いた訳ですが、気になった作品があれば挙げて頂ければと思います。
 
北條:まず、感じたことを言っていいですか。何で日本のインディペンデント映画って、みんなでカレーばっかり食べているんですかね? 飯を食う場面ではカレーですからね。あのカレーって何の象徴なんだろうと思って、だんだん批評的な見方をしてしまいました(笑)。
「日本映画・ある視点」部門 座談会

©2012 TIFF

 
矢田部:記号的な!
 
北條:そう。日本のインディペンデント映画ではカレーというコードが物語への暗喩として働きかけをしている…。
 
矢田部:それ気づかなかったですね(笑)。
 
沢村:『少女と夏の終わり』もカレー食っていたな。
 
矢田部:今年の切り口はカレーだったか!
 
沢村:ところで、応募の縛りとかはあったのですか?
 
矢田部:今までは長編だけだったのですが、今年は短編も集めてみることにしたので、尺の規定はないです。あとは何本目までとかの規定もないですし、製作年(本年なら2012年1月1日以降に完成した作品)と、ワールド・プレミアであることだけです。
 
北條:この作品群のなかから震災、宗教、疎外されている女性というテーマが非常に印象に残ります。つまり、それだけテーマが絞られている感じがしますね。『少女と夏の終わり』のあの少女にすら感じました。ソーシャル・プレッシャーを抱え込みながら生きていかなければならない人間を描くというテーマを。
 
家田:劇場で番組を決めるという観点から言うと、「あ、この作品は決まっている」ということが頭にあって、「これはまだどこも決まってないのか、だったらこの作品は」と、つい気持ちが入って見てしまう。そうしたなかで言えば、『あかぼし』ですね。
最初、資料をもらったときに長尺だから、「今日の体調だときついなあ」と(笑)。それで今日見たのですが、新鮮でしたね。長尺を撮るというのは力量がないとできない訳で、宗教の話ですけど、役者がうまいので安心して見ていられました。
 
矢田部:われわれのポイントも一緒で、役者であの長さを引っ張って行けるところに力量を感じました。
 
沢村:僕としては、今回はほんとに言いにくいですよ。配給が付いているところと付いていないところの縛りはなしですか?
 
矢田部:その縛りはなしです。
 
沢村:監督が個人で応募している可能性もあるわけですね。
 
矢田部:今回、全部そうです。配給先からの応募は1本もないですね。
 
沢村:ということは、自主でいろんなルートはあるのですけれど、やはり、比較的バックボーンのある監督が多いなという印象を受けました。それで応募して、劇場公開であるとか、次に繋げることに貪欲な人が出してきているということなのかな。
 
矢田部:というよりも、そういう人たちを映画祭が残したという感じかもしれません。
 
沢村:作ることが楽しいというレベルは、少し越えているのですよね。自主映画を作る楽しさを否定する訳ではありませんが、その次に自らどうしようとか、どういう人たちに見せたいのか。このクラスの人たちはほんとに数が凄く増えてくると思います。<弁慶>の映画祭を審査していても何本か出てくる。
 
北條:年によって、波が当然ありますよね。『あかぼし』は、完全にキャスティングの映画ですね。でも、ラストシーンを見たときに、最初から強い構成力で狙っていたんだと。この監督はここにラストの完結をもってきたかった。人を信じる力をもっている人間を描くという点では、うまいなと思いました。略歴を見たら日本映画学校出身です。撮るべきものがきちんとイメージされている。そこが面白かったですね。
サンタクロースをつかまえて』はパスしますね。ユーロスペースで公開しますので。
 
矢田部:先のスター監督が必要という話に戻せば、岩淵監督は松江哲明監督を目指しているのですよね。彼なりのセルフ・ドキュメンタリーに挑んでいて、かなりいいチャレンジ振りを見せたと思っています。
 
北條:岩淵監督は何を撮りたいかが明確な人ですね。非常に好感の持てる作品でしたね。『あかぼし』と同様に、岩淵監督も人を信じていますね。
少女と夏の終わり』ですけれど、今どき新鮮に感じるくらい、監督の育った環境が違うんだなと。ちょっと登場人物が多い感じがしますけど、ロケ先の環境がシンプルなので、詰め込みたくなるのはわかる気がします。主人公の中学生の女の子はなかなか魅力的だなと思いました。
NOT LONG, AT NIGHT 夜はながくない』は、これ、感覚の映画なので僕はわからなかった。自分たちの育ちではない監督が生まれてきていることを実感しました。特に人の出し入れや風景。自分と同年代の監督はこういう風景は撮らないなあと。そういう観点からいうと、『あれから』と『何かが壁を越えてくる』というのは、完璧にわれわれ世代の映像で、見ていて安心していられる。やっぱり、ここ狙っているなという感じ(笑)。
監督の世代によって、見方とか楽しみ方がぜんぜん違ってくる。『はなればなれに』は、映画は身体表現だという考え方を徹底している監督ですね。人の動かし方、生き生きとしたリズム感がビビッドでとても面白く感じられました。女の子の足の長さがキュートでとってもよかった。
 
矢田部:ありがとうございました。一気に作品を語ってもらいました(笑)。
 
家田:『ライブテープ』の松江君の話が出ましたけれど、岩淵監督は別の作品を<MOOSIC LAB>で見ました。そのときは平野(勝之)さんの感じで、影響を受けていると感じる対象が松江監督だったり平野監督だったりで、その監督たちの持ち味を実際に自分のものにしていく過程で、もっと次も見たいと、『サンタクロースをつかまえて』では感じました。これ、音楽の使い方がうまいですよね。土屋豊監督は、『新しい神様』も見ています。世代は上で40代かと思いますが、『GFP BUNNY―タリウム少女のプログラム』もいいと思いました。まさにゲーム感覚の作品ですが、金魚を殺したあとの食卓の魚とか、見事でした。
 
矢田部:岩淵監督の『サマーセール』を見て、あのダメっぷりがほんとに好きだったのです。で、次に割と短期間で『サンタクロースをつかまえて』を撮って、通過点として、これは押さえておきたい作品だと思ったのです。順調に成長してくれて嬉しかったです。
 
家田:岩淵監督はメイキングも結構やっているみたいですね。
 
沢村:今回、長編第1作の人も何人かいますね。ワールド・プレミアでここが最初の上映ということは、ここを目指してきたということですか? 国際映画祭の場でこの作品を発表したいということですよね。
 
矢田部:と思ってくれていると、嬉しいのですけれど。
 
 
後編につづく:これからの「日本映画・ある視点」部門について、そして、若い映画人へのメッセージ。後編もお楽しみに!
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